今まで『碁は芸だ』という発想だったんです。強い人と戦うと、いつのまにか形勢に差をつけられている……みたいなことが、最近は少なくなってきました。勉強熱心な棋士同士だと序盤がパターン化されてしまっていて。
今まで上位にいて、楽に勝てていた人が、なかなか勝てなくなってきている。そういうことはありますね。
──序盤がパターン化されているというお話がありましたが、そうなると誰もが似たような碁を打つということでしょうか?
大橋:
光ってるところ……つまり第一候補はもうみんな知ってるんですよ。だから光ってないけど実は有力だっていう手を探し出して、学習するという棋士が、いい成績を残している気がします。そういう手って意外といっぱいあるんですよ。
──将棋界でも、渡辺名人が囲碁界からその方法を学んで勝っていました!
大橋:
自分よりもちょっと強いかな? という人と当たった時に、自分だけが研究している勝ちパターンへ誘導する。そういう方法を取っている人が多くなったなと、棋譜を見ていると思いますね。
現在のAIは自己対戦して強化学習していく方法で強くなっているんです。けどそれだと、AIが好きなパターンに偏ってしまうんですね。
──将棋だとまさに、水匠が居飛車に偏らせることで対ソフトの勝率を上げていました。
大橋:
小目から小ゲイマジマリという碁を、人間は打っていた。ところがAIは二間ジマリの碁ばかり打っている。だからずっとここ数年は二間ジマリ全盛だったんですけど……最近になって絶芸やゴラクシーを見ると、別に小ゲイマに打ってもそんなに変わらない。
ただ、二間のほうが好みなので、0.3%くらい評価が高いかなと。そういうことで、あえて小ゲイマを研究して勝っている棋士もいますし。
──ディープラーニング系のソフトがどんどん強くなっていくことで、最善手……いわゆる光っている手が変わっていくことというのはあるんでしょうか?
大橋:
それもよくありますね。ただ……少しずつ少しずつ変わっていくのでよく見てないと気づかないレベルです。