大橋:
僕、GLOBIS-AQZの開発をしていた時に棋譜を何千局と見たんですけど……自己対局で100万局くらい打つと、新たな一手を発見して、難解定石で新手を打ち始めるんです。でもまた100万局くらいやると『やっぱりその変化ダメだ』と元に戻ったりして……。
AIは賢いのか賢くないのか、よくわかんない(笑)。
──じゃあ初手に天元を打つようになるのは、まだまだ先ですね。
大橋:
そこ、打ってほしいんですけどねぇ。でも今のAIは囲碁全体を解明してるかという視点で見ればまだ幼稚なので……あと10年くらいしたら打ち始めるかもしれません。人間で言うと100万年分くらいの経験をしたら。
──そう聞くと、確かにAIは賢いのか賢くないのか、よくわからない(苦笑)。
AIに2000敗して世界チャンピオンになる
──少し話は変わりますが……囲碁の先生からご覧になって、将棋界はどう見えますか?
大橋:
AIから学んでいる歴史は、将棋のほうが5年くらい早いと思うんです。
──将棋ソフトのほうが、人間を超えるのが早かったですからね。
大橋:
将棋のほうが研究が勝敗に直結するのは、同じ棋士として大変そうだなと。
研究通りにお互いノータイムで終盤まで突入して、しかも研究の差で決着がついてしまうことすらあるじゃないですか。囲碁は研究通りにならなくても、致命傷にはならなくて。だから将棋の先生のほうが、研究には命懸けという面があるんじゃないかと……。
──ゲーム性もあって、将棋は確かに囲碁よりシビアな感じはありますよね。一手でも間違えたら負けますし……。
それもあってか、囲碁の世界はゆったりして見えます。囲碁には椅子対局がありますよね? あと、トイレ休憩があると聞いたことがあるんですが。
大橋:
時間を止めてトイレに行くことはできます。ただ、相手の手番じゃないと時間は止められません。
──なるほど! それなら不公平じゃないですね。
大橋:
椅子に関しては、囲碁は世界戦がメジャーですからね。中韓の棋士にとって、正座の習慣はないですし……。