といっても、乃木坂46の人気をきっかけに乃木の功績が脚光を浴びるのであれば、それは悪いことではない。
ただ、環球時報の記事は、根拠の否定された昔の与太記事をもとに乃木が日清戦争中に中国・旅順で虐殺に関与したと非難し、ここぞとばかりに得意の白髪三千丈のネガティブキャンペーンに走るもの。これでは乃木坂46の中国人ファンも戸惑うばかりだろう。
乃木の難癖報道からにじむ中国の悲哀
日清戦争が行われたのはまだ欧州の列強が世界に君臨していた時代だ。戦争の経過は各国の従軍武官らが見守るなかで行われている。旅順での乃木の振る舞いもまたしかりだ。
イエロージャーナルとして悪名を馳せていた新興国・米国の新聞が「日本軍大虐殺」として報じたが、当時の駐日米公使は「恐るべき行為の数々は真実ではない」ことが従軍武官らの報告で明らかになった、と報告している。ベルギーの公使も同様だ。当時のタイムズ紙には清国軍が軍服を捨てて便衣兵として潜伏していた疑いについても触れており、こうした事情が虐殺話に膨れ上がったとするのが通説だ。
乃木について日本国内では司馬遼太郎など一部、根強い批判はあるものの、第一次世界大戦で百万人単位の犠牲者を出した塹壕戦に先立ち、同様の条件の与えられた日露戦争の塹壕戦で双方数万人の死者を出したが(戦争当時はそれでも大いに批判を招いた数字だが)、固い要塞を突破した乃木のリーダーシップを否定することは難しい。
日露戦争で当時の列強として知られたロシアを破っただけではない。乃木は日露戦争の前には第3代台湾総督として台湾にも赴任している。李登輝や蔡焜燦など、日本統治時代を知る台湾人からは戦後も尊敬を集め続けた。
現代の唯一の列強とも言える米国と対峙し、台湾の統一を夢見る中国にとって、乃木は、果たせぬ夢を果たした軍神としても映るのかもしれない。
GDPでは日本を抜き、米国も追い越すかと思われる中国だが、日本のアイドルなどの影響はいまだ多大。文化的にはまだ大国となれていない中国の悲哀が、この乃木への難癖報道にはにじむ。
《昨日の敵は今日の友》
日露の旅順攻囲戦の後、敵将ステッセルに礼を尽くしたエピソードを元にした唱歌「水師営の会見」のあまりにも有名なくだりだ。悲しいかな。現代の中国には乃木も、ステッセルも見当たらない。