とある現役のマンガ編集者は、女性マンガ家が性別を隠す理由についてこう語る。
「一昔前までの少年誌の現場には『女性マンガ家の作品は売れない』という意識が確かにありました。でも今は、マンガ家にも編集部にも『男が描いて男が読むもの』という感覚はほとんどないと思います。とはいえ少年マンガの読者にはSNSなどで『女かよ』的な発言をする人がいるのも事実で、それを気にするマンガ家さんも多い。話題になっていない人でも、女性のマンガ家は想像以上に多いですよ」
過去を振り返れば、さくらももこ(『ちびまる子ちゃん』)や臼井儀人(『クレヨンしんちゃん』)も、生前は個人情報を秘匿していた。毎年3月に発表されるマンガ大賞でも、作者本人にかわって担当編集が授賞式に参加するケースは多く、2018年に『BEASTARS』で大賞を受賞した板垣巴留は雌鳥のマスクを被って登壇した。
シングルマザーやヤングケアラーというケースも
「シングルマザーやヤングケアラーのため、在宅でできる仕事としてマンガ家を選んだという作家も意外と多いんです。個人情報についても女性の方が気にする傾向はあると思います。作者の属性でイメージを持たずに作品を見てほしい、という人も多い。今後は出たい人は出る、出たくない人は出ないと本人の希望が実現するようになってほしいものです」(前出・マンガ編集者)
筆者が昨年インタビューした「少年サンデー」の市原武法・元編集長も対象読者を「14歳の男女」と話しており、作り手としても読者としても女性を排除する空気を現場の人から感じることはまずない。読者の中でも、多くの女性マンガ家の活躍を受けて、作者の性別を気にする人の割合は減少傾向だ。
しかし女性マンガ家の作品が紹介される際に「女性ならではの繊細な心理描写」といった表現が悪意なく用いられることは今も多い。逆に「男性ならではの描写」とは言わず、少年マンガの作り手は男性であることが前提になっているとも言える。
もはやマンガは性別を超えた国民的な娯楽であり、作者の性別がことさらに詮索される状況が終わっていくことが望ましい。