6) 何か問題はあるの?
予想されるのは政治的問題だ。かつて、ロシアは日本のミサイル防衛には特に何も言ってこなかったが、国境の西で接する東欧にミサイル防衛網が構築されつつある現在は、さらに極東でもミサイル防衛が強化される事態に神経を尖らせている。今年3月の日ロ防衛相会談や11月の日ロ外相会談でも、日本のミサイル防衛に懸念を示しており、イージス・アショアの配備は日本側が意図せずともロシアとの関係悪化、対抗措置を受ける可能性がある。
また、陸上設置による、抗堪性の低下もある。イージス艦は港に停泊中こそ脆弱だが、一度沖に出てしまえば、探知・接触は困難だ。一方、どこにあるかハッキリしているイージス・アショアは、破壊工作員や低空を侵入する巡航ミサイルの脅威が現実的なものとなる。イージス・アショアの運用を任される陸上自衛隊は、この対策に頭を悩まされるかもしれない。
そして、人員の問題だ。イージス・アショアを運用するのは陸自とみられるが、20年以上イージス艦の運用経験がある海上自衛隊に対して、陸自には経験がない。また、これまで長距離の地対空ミサイルは航空自衛隊、中距離・短距離ミサイルは陸自と、運用が棲み分けられてきた。それが一気に宇宙空間を狙うSM-3から、長距離飛翔するSM-6まで陸自が任されることになるかもしれない。イージス・アショアの運用人員の育成や、ノウハウの確立が迅速に出来るのかという課題が生じてくる。
日本のミサイル防衛体制そのものも考慮すべき点がある。これまで、日本のミサイル防衛は、海自のイージス艦、空自のPAC-3が担ってきたが、これに陸自のイージス・アショアが加われば、3自衛隊でミサイル防衛を担うことになる。一刻も早い行動が求められるミサイル防衛が、3組織に分散されることになる。現在も進められている3自衛隊の統合運用を、さらに確実に、緊密にしていく必要があるだろう。
もっと細かい問題を言えば、電波の届かない水平線の向こうの目標を迎撃可能な長射程を有するSM-6を有効に活かすためには、情報を取得するデータリンクが必要になる。このデータリンクが日本にはまだなく、並行して導入を進める必要がある。
解決すべき課題は山積みだが、なにより日本の戦略として、脅威にどう対応するかが重要だ。このごろは北朝鮮のミサイルの脅威が叫ばれているが、ついこの前は「中国牽制」ばかり言われていた。その中国でも巡航・弾道ミサイルの高性能化が著しい。ミサイルが落ちると北朝鮮ばかりに囚われるのではなく、もっと周囲を見回して脅威を見定めることが必要だろう。
最後の懸念は、「半沢直樹」や「PPAP」など、他社で既に使われている名称を大量に商標登録出願することで有名なベストライセンス社が、今年8月に「AEGIS」「AEGIS ASHORE」の商標登録を申請していたことだ。これまでの問題に比べれば微々たるものだし、特許庁はこのような申請には却下処分を下すとリリースを出しているが、なんとも面倒な手間を増やしてくれたものだ。