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中山弁護士は具体的に何をしたのか?

 では中山弁護士がとった方法とは具体的にどのようなものだったのでしょうか。本件の経緯はつまびらかにはされておらず、想像で補うしかない部分も少なくありませんが、現時点で考える限り、(1)国税徴収法を駆使し(2)決済代行業者に対する(3)やや強引な方法を取った点が想定外であったと考えます。以下まとめてみました。

 多くの弁護士が事前に予想できなかったことのひとつは、国税徴収法67条1項(と地方税法48条1項)という「飛び道具」を使って、滞納税額を遥かに超えた預金債権を差し押さえた点です。国税徴収法とは、滞納者の財産調査や、(1)滞納者と関係する第三者の財産・帳簿の調査が可能(2)滞納税額を超えた差し押さえが可能という強力な権限を発動できる法律です。

 当職も含めて、行政の事件をあまり担当しない弁護士にとっては、慣れない条文ですが、驚くほど強力な規定です。一般人の債権回収について、法改正がなされてもなお「逃げ得」で終わる状況が多いことに鑑みれば、「チートスキル」とも呼ぶべき行政機関のもつ超強力規定だと言えるでしょう。

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 今回の場合は田口容疑者が国民健康保険税を滞納していたことで、この国税徴収法を使う余地が生まれたという理屈になります。 

山口・阿武町4630万円誤給付事件、容疑者の自宅

 報道によると「容疑者と(オンラインカジノの)決済代行業者3社が委任関係にあると判断し、業者の口座を容疑者自身のものとみなして預金の差し押さえ手続きを進めた」としています。

 結果的にこの決済代行業者が返金してきたわけですが、国税徴収法により差し押さえ手続きを進めた口座は決済代行会社の口座であり、滞納者である田口容疑者の名義ですら無いわけです。このあたりは「チートスキルをフル活用した手段に出たな」という印象を受けました。

決済代行業者と、海外オンラインカジノの「闇」

 しかし他方で、一部の決済代行業者が、事実上詐欺の片棒を担ぐような取引を行い、消費者を中心とした多数の被害が発生していたことも事実です。

 端的に言えば、いわゆるカード会社と直接の取引を行うことができない怪しげな事業を行っている会社までが、間に決済代行業者を挟むことによってウェブ上での簡単なカード決済を可能にしている、と言う状況です。

 例えばサクラ行為を行う詐欺出会い系サイトが決済代行業者を使っている事例も多く、決済代行業者に返金を求め、会社がこれに応じるケースは珍しくありません。

 2010年時点で内閣府は「決済代行業者を経由したクレジットカード決済によるインターネット取引の被害対策に関する制限」を指摘しています。

 決済代行会社は行政から睨まれたり、カード会社から切り捨てられてしまえば仕事はできません。今回のケースでもこの点を決済代行会社が警戒した可能性はあります。