結婚は「火花が散るような方」と
そうした長いお付き合いのなかで、私はちょうど殿下の倍の人生を歩んできましたので、何かとよもやま話の折などに、それとなく殿下のお悩みのご相談にのることもございました。
正直申し上げてお役にたったかどうかわかりませんし、私が殿下に影響をお与えしていたというようなことはないと思います。ただ、結婚観について多少改まってお話ししたことは何度かございました。
いわゆる若いひとたちの結婚について、年配の者が進んで世話をするということは私はそもそも嫌いなものですから、殿下に対しても「いいお嬢さんだから進んでお薦めしよう」などと考えたことは一度もありませんでした。殿下がお妃候補の方々について、私に意見をお尋ねになられた時には出来るかぎり私の考えを申し上げましたが、そういうこと以外はお妃選びには一切関わらない、という主義を貫いて参りました。自分で相手を見つけてきて、そして納得がいったら結婚するというのが、現代の若者だろうというように思ってきたからです。
しかし2年ほど前に、私の結婚に対する考え方をご参考までにかなり率直に申し上げたことはございました。
殿下に、
「これはと思う人とは火花がある瞬間に散るようなことがあるはずだから、そういう方を大切にされるべきです」
と申し上げたところ、
「そうですね。火花が散るようなお相手はなかなかいませんですね」
と答えられたのをはっきりと覚えております。続けて私が、
「お妃はご自分でお選びになるべきだと思います。世間がなんと言おうと、ご自分で納得された方、お好きな方、火花が散るような方をお選びになるべきではないでしょうか」と申し上げました。もとより皇太子というお立場ですから、お家柄とか家族の問題とかいろいろあるかもしれませんが、殿下が「どうしてもあの方が……」ということであれば、相手がどんな人であろうと――どんな人と言ってもおのずと限界はあるでしょうが――「普通のお嬢さんであれば、国民の多くは納得するのではないか」という趣旨のことも併せて申し上げました。
殿下は人一倍責任感がお強いですから、皇太子のお立場として、三十路を迎えられて「早くいい人を見つけて結婚しなくては」というお気持ちはどこかにあったと思いますけれども、私は「たとえ遅くなってからご結婚されてもいいのではないでしょうか。結婚が早かろうと遅かろうとそれは個人の問題であるし、いい方と巡り会った時がチャンスではないですか。そんなに年齢にこだわられることはまったくないのではないでしょうか」と申し上げたこともございました。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。