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「実はこの話はまだ両陛下と向こうのご両親しか…」天皇陛下から雅子さまとのご結婚を打ち明けられた日のこと

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2022/06/16

source : 文藝春秋 1993年3月号

genre : ニュース, 皇室, メディア

 しかし殿下の演奏は単なるお寛ぎのためというレベルではありません。私は天皇、皇后両陛下とご一緒させていただいたこともございますが、天皇陛下がチェロをお弾きになり、皇后さまはピアノ、殿下がビオラをお弾きになるお姿を拝見していると、実にほのぼのと心あたたまる気がいたします。本当に心のこもった演奏をなさいます。日本の皇室がこうした文化的なものをきちっとお持ちになっているということは、われわれ国民としては世界に対して誇りに思っていいことではないでしょうか。

1994年10月2日、広島アジア大会開会式ご出席 ©JMPA

世間の言葉でいえば、情が深い

 殿下は、私と雑談される時などには、ご自分が行かれたタイやバルセロナ五輪の印象などをお話しになることが多かったですね。お酒はけっこうお好きで、お強いです。特定のお酒にこだわるのでなく、なんでもお飲みになる。時には、ドイツのリードなどをお歌いになりますし、そうした席では気のきいた上手なジョークをおっしゃいますね。一番面白かったのは、塩が固まっていて容器からなかなか出ない時があって、殿下が容器を振っても振っても出ないので、「出ませんか」と申し上げると、「早く出んか(デンカ)」とおっしゃったんで周囲は意外なお言葉に爆笑してしまい、すかさず傍の人が「じゃあ、交代し(コウタイシ)てんか」と返して、一同大爆笑になったこともありました。

 殿下はウイットに富まれているだけではなくて、5~6人で集まってお食事をする時など、たいへん周囲にお気をつかわれます。たとえば6人のうちの5人が学習院の出身者で、話題が自然と学習院時代の先生の陰口だとか、思い出話だとかになってしまうと、どうしたって1人は隅っこで仲間外れになってしまう。そうした時は殿下はさりげなくそのひとに合わせて話題を変えるといった配慮をされる。非常に気配りが行き届いていて、しかもお心が非常にやさしいんですね。

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シドニーのタロンガ動物園を訪れ、ウォンバットを抱かれる雅子さま ©AFP=時事

 そうしたご性格は両陛下の影響が強いように思えます。両陛下が老人ホームへの慰問や福祉施設などにお出掛けになって、座り込んで話されたり、背中をさすったりしておいたわりになる。ああしたことはジェスチャーでやっていると思っているひとがいるかもしれませんが、両陛下は本当に心からされていることなんです。殿下はその両陛下のお心を受け継いでいらっしゃるから、おやさしい。世間の言葉でいえば、情が深いということなのでしょう。