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 けれど、今回つくづく感じるのは人間とはそもそもが非合理な存在だということです。プーチンの侵攻が非合理的で理解に苦しむとは多くの専門家が言っていることですが、僕はプーチンだけではなく、世論で動く西側諸国もまた信頼できないプレイヤーのように思うんですね。SNSを利用して世界の大衆に政治家を通さずじかに話しかけ、味方につけさせるというウクライナのやり方は戦術的には正しい。実際武器支援を受けることに成功している。ただ、それによって起きた国際世論の「感情化」の行く末には警戒が必要です。

小泉 国際世論が高まっていく中で、それでも猶ロシアが核を使うとすればウクライナに対する核攻撃ではなく、西側を怖じ気づかせるための核使用になるのではないでしょうか。北大西洋の海上に落とすなどの限定的かつ警告的な核使用が軍事理論的には考えられます。

 僕は、民主主義には戦争のような危機のガバナンスとしては根本的な問題があると思っています。民主主義は本質的には、カール・シュミットが指摘したように、自由主義と原理的に対立するところがある。民主主義はルソーが言うように人民の意思を優先させる、全体の意思を優先させる原理です。それに対して自由主義は社会よりも個人を優先させる原理なので、民主主義と対立する。戦争のような非常時にみんながSNSに流され、それをもとに民主主義的な決定を行うと、極端な選択をしてしまうかもしれません。

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東浩紀氏

三沢・横須賀にもミサイルが

小泉 ただ、エスカレーション抑止は必ずしも核使用を伴うものではありません。弾道ミサイルを国土の近くに落とすか落とさないかといった米露間の駆け引きなど、核使用にいたる手前のさまざまな手段が用いられ、互いに計り続けていくことになるはずです。

 ウクライナ戦争による世界秩序の不安定化については、日本も他人事ではありません。日本の安全保障は米国を信頼することで成立してきたわけですが、米国は本当に助けてくれるのか、という疑問も出てきました。

小泉 ウクライナ戦争がさらに拡大し、ヨーロッパ全体を巻き込んだ大戦争になってしまった場合に限りますが、在日米軍基地にロシアのミサイルが飛んでくる可能性はあります。ロシアの軍事思想は「アクティブ・ディフェンス」が特徴で、守るためには相手の攻撃能力を先に叩くという発想です。米軍の攻撃からカムチャッカにある前線基地やウクラインカの爆撃基地を守るために三沢や横須賀の米軍基地を先に叩くと考えるのは自然な流れと言えます。

 台湾有事に米軍がどう動くのかも定かではありません。そもそも台湾の国際的な地位は複雑です。ウクライナ戦争以上に非介入の可能性が高いようにも見える。今後日本では米国に頼らず自前の安全保障を求める声が大きくなると思うのですが、どうお考えですか。

東浩紀氏、小泉悠氏による対談「ロシアは絶対悪なのか」の全文は「文藝春秋」7月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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ロシアは絶対悪なのか