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 歴史の歯車を戻すことはできませんが、そもそもロシアが侵攻を開始したタイミングでNATOがより強硬な態度を取り、戦闘の拡大を抑止するという選択肢はなかったのでしょうか。

小泉 そうすべきだったと思います。昨年12月にプーチンとバイデンがオンライン首脳会談をしましたが、その後、バイデンは「米軍が単独で軍事介入をすることはない」と述べました。バイデンはあそこまで明言する必要はなかった。

全面核戦争の予感

 そうですよね。今のように戦争が長期化してしまうと、プーチンが核のスイッチを押す可能性もゼロではなくなってくる。国際世論の強硬化が怖いのは、かりにロシアが核兵器を使ったとして、「こちらも撃ち返すべきだ」という意見が安易に多数派となる恐れがあるからです。ゼレンスキーは主要国の議会で演説を繰り返し、今や世界の英雄となっている。ウクライナでの戦禍を伝える映像が毎日のように更新され、SNSで拡散される状況では、冷静な判断ができるとは限りません。

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核使用の可能性に触れたプーチン

小泉 ロシアには「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」と呼ばれる核戦略思想があります。限定的な核使用によって敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させる。この戦争で言えば、ウクライナの無人地帯や黒海上などで限定的な核使用を行い、戦闘の継続を放棄させたり、第三国の参戦を思い止まらせようというものです。

 ただ一方で、米国は2018年に行った核態勢の見直しで、ロシアが限定的核使用をした場合に同じ規模の核報復を行える能力を持とうということになりました。これが今配備されている潜水艦用の低出力の核弾頭で、仮にロシアがウクライナの降伏を強要するために限定核使用に及んだ際は、アメリカも一発だけ撃ち返すというオプションができたわけですが、その先がどうなるかはまったくわかりません。

 民主主義国家は世論で動きます。ロシア軍が核兵器を使用し、世論が報復を求めた場合、どこまで抑えることができるか。

小泉 もしロシアが人口密集地に核を落とし、何十万人規模の犠牲が出た場合、米国による一発だけの報復がどの場所に為されるかは、その時の政治指導者の決断によります。核抑止戦略の理論モデルでは、どうしても「独裁者の信念」のような側面は計算することができない。

 核抑止論は基本的にはゲーム理論に基づいているので、合理的なプレイヤーを想定して作られていますよね。