「インターネットでは、気に入らないことがあれば、誰でも状況を変えることができます」――自分の本を出した出版社の販売サイトを無断で作り上げてしまった16歳のオードリー・タンさん。彼女を訴えるかどうかで迷った、出版社の創設者が下した決断は……。
タンさんのユニークな仕事論を、新刊『何もない空間が価値を生む AI時代の哲学』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
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私にとって、仕事とは常に新しいものを生み出す習慣です。仕事は創作の時間、生活はリラックスの時間、私の毎日はこの2種類の異なるリズムでできています。このリズムのどちらがいつ起こり、いつ停止するかはそのときの気持ち次第です。
気持ちは時間によって分けられるのではなく、空間によって分けられます。つまり、私は何時何分に仕事を始め、何時何分に退社するかにはこだわりません。しかし、私の休息空間にはキーボードがないので、この空間では仕事モードにならないのです。
早すぎる最適化は諸悪の根源
2008年頃、『ポモドーロ・テクニック(トマト時計管理法)』という時間管理法について書かれた文章を読みました。これは、1987年にイタリアの大学生、フランチェスコ・シリロが最初に発明した方法です。期末試験に向けて勉強していた時、時間がなくて追いつめられていたシリロは、集中するため、キッチンに置いてあるトマト形のタイマーを使うことを思いつきます。
まず25分間に設定して作業に集中し、その後、5分間の休憩をとります。これを4回繰り返した後、15〜30分程度の比較的長い休憩を挟んだら、とてもうまく集中できたのです。
この方法を知ってから、私はずっとこのリズムで仕事をしています。最初はプログラマーとしての自分の仕事の習慣に合っていたからです。プログラムを書くときに、頭の中で最初に思いついた解決策は、狭い範囲でうまくいったとしても、後ろの工程に来たとき、柔軟性や拡張性、品質などを犠牲にしてしまうかもしれません。
コンピュータサイエンスの世界では、Premature optimization is the root of all evil.「早すぎる最適化は諸悪の根源」という言葉があります。私たちは往々にして、細部を良くすること、つまり早すぎる最適化に固執しており、その結果、全体のクオリティが犠牲にされてしまう、という意味です。
だからこそ、長い目で見ることが大切なのです。これは今の私の仕事にも通じるところがあります。