「夫は残された人生、目一杯生きようと思っていた」
8月25日までの公判では、富夫さんの主治医や、法医学医、腫瘍内科医らが証人出廷したが、専門家らも、富夫さんの死因についての意見は分かれている。主治医と法医学医は「インスリン投与による低血糖脳症が死因」、腫瘍内科医は「がんが死因」との見解を示した。
また富夫さんが、事件前に余命宣告を受けていたかどうかについても、主治医と家族とで見解が分かれた。主治医は「肺の転移が見つかり、根治の可能性がなくなった。その辺から説明しないといけないなと思っていた時期です」と、具体的な話ができていないまま富夫さんが意識不明となったと語ったが、富夫さんの妻は、まったく異なる証言をしたのだ。
「(事件前年である2017年)9月に、お医者さんから、手術も放射線治療も無理と言われ『余生を楽しんでください』みたいな、そういう言い方をされました。それを夫と私は余命宣告と受け取りました。夫は残された人生、目一杯生きようと思っていたと思います」(富夫さんの妻の証言)
さらに妻は、富夫さんが延命も望んでいなかったと述べる。
「俺は絶対延命治療したくない、と言っていました。自分は動ける体でいたい、と、そう言っていました」(同)
富夫さんはインスリン投与による低血糖脳症に陥ったのち、経鼻経管栄養措置が取られていたが、のちに誤嚥性肺炎を起こした。その直後、病院に対して足立被告から「栄養を減らしていくことはできないか」と申し出があったという。 “延命したくない”という富夫さんの意思を尊重したための病院への申し出だったのかどうかは、現時点では分かっていない。
足立被告の母親が証言台で語った
富夫さんの妻は、聖光さんの母親でもあり、また足立被告の母親でもある。被害者家族と被告人の家族という複雑な立場についての苦悩も語った。
「証言を悩まなかったといえば嘘になりますけど、話すべきだという思いに変わりはなかったです。私が話すことによって、朱美と聖光、両方の家族に、どういう結果をもたらすか……。考えると辛かったです。両方の家族にどうやって顔を立てるか、そういうこと、色々考えますと……」(同)
証言台の周辺に衝立が置かれ、様子は傍聴席から見えないが、悩みながら、この日を迎えたことがうかがえる。証人尋問に先立って、検察官や弁護人と面談を行う予定だったようだが、悩んだ末なのか、検察官との面談を当日にキャンセルしたことも法廷で明かされた。