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「海外では10年で栽培面積がほぼ倍増」なのに、日本で「有機野菜」が流通量の1%にも満たない“本当の理由”

2023/03/22
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データはメーカーまかせ

 問題があるのなら、農林水産省が試験をやり直すべきではないか。

「データは企業からいただいていると農水省の人は言っています。そこには我々のような学術論文は含まれていませんから、そもそも問題意識がないのだと思います。さらにメーカーは、国民の健康を担保する毒性試験のデータを公開していないのです。審査される側に情報をゆだねていることは完全に利益相反になっています。試験に問題があれば、安全性が根本からゆらぐということを真剣に考えるべきです」

奥野修司氏 ©文藝春秋

 神経毒性は目に見えないし、人体に悪影響を及ぼすことがわかったときは、取り返しがつかない。だからEUは「予防原則」という考え方にもとづき、ネオニコ系農薬の使用を厳しく制限しているのだが、日本では今も大量に使われている。そこでリスク管理機関である農水省へ聞いた。長文なので回答を要約する。

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――農薬の使用基準はどんなプロセスで決定されるのか。

〈申請者(農薬メーカー)が病害虫に効果があるか、安全性が確保されるか等の試験を行った上で、その農薬の登録を申請し、農水省は関係法令に基づいた科学的な審査をして登録します〉

 星教授の指摘したようにデータは農薬メーカーまかせなのだ。もっとも、これは医薬品も同じだから、農薬だけをやり玉にあげるのはフェアではない。問題はそのデータの正確性、中立性をどう検証したかだ。

〈データは、OECDの試験ガイドラインや、試験を行う施設が満たすべき要件に関する国際的な基準(GLP基準)に従って実施された試験によるものとされており、農林水産省は、試験がこれらのガイドラインや基準に適合して実施されたか等の確認を行っています〉

 ガイドラインや基準に準じて試験しているから正確だという。OECDガイドラインそのものについては、〈OECD加盟各国による科学的議論の結果整理されたものであり、また科学の進展とともに、必要に応じて更新されている〉と、焦点をぼかした回答だった。

地域で異なる残留基準値

 驚いたのは、日本の残留基準値は諸外国よりゆるいのでは、という疑問に対する回答だ。

〈農薬の使用方法は、その国の気候、病害虫の発生状況や栽培実態を踏まえて定められている。同じ農薬で同じ食品であっても、我が国の基準値がアメリカやEUといった他国の基準値より高いものもあれば、低いものもあり、我が国の基準値が一概に緩いと言うことはできません〉

 残留基準値は人体への安全性を担保するものだと思っていたが、栽培する場所で変わるというのである。高温多湿で虫や雑草の多い地域に暮らす人間が、そうでない地域の人より農薬への耐性が強いとは限らないと思うのだが。

 農水省は、人体への影響も含めて科学的な審査をしているから農薬は安全だ、と繰り返す。しかし海外では農薬の安全性への疑問から、有機栽培が広がっており、この10年で栽培面積がほぼ倍増している。

 なぜ、世界一、消費者が安全安心にこだわるとも言われる日本で、有機栽培が広がらないのか。さらに探るため、日本でも指折りの農業県である鹿児島の農業現場に向かった。

ノンフィクション作家・奥野修司氏による「ルポ 農家が嘆く『有機栽培』の壁」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年4月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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ルポ 農家が嘆く「有機栽培」の壁
「海外では10年で栽培面積がほぼ倍増」なのに、日本で「有機野菜」が流通量の1%にも満たない“本当の理由”

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