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 亀太郎は予審で「強姦致死」が有罪となり公判に付された。このときの予審終結決定書の「理由」は、新聞では「被告亀太郎は女湯をのぞきつつ〇〇をなし、これを楽しむの癖あり」と伏せ字にされたり、言い換えになったりして話題を呼んだ。

名称は“デンマークの出歯亀”にまで拡大し…

 そうした新聞の大報道で事件と「出歯亀」の名前は一気に世間に広がった。同年5月11日付東朝の社会面コラム「途上見聞」には「出歯亀遊び」の話題が。

 出歯亀だ――。水道橋上の電車停留場の待合付近は子守りや腕白どものいい遊び場所だ。ソリャ出ツ(ッ)歯亀だーと10歳ばかりの男の子が歯をむき出して2~3人の女の子を追い回していた。白糸は染まりやすい。ご注意ご注意。

 のぞきや追い回し、性犯罪に名前が流用された。「横濱(浜)の女出齒龜 湯屋を覗き歩く看護婦」=6月2日付國民朝刊=、「少年出齒龜」(少女2人に悪さをした17歳の少年3人が拘留10日に)=6月6日付東朝=、「栃木県の出齒龜」(26歳の男が恋慕していた農家の嫁に迫って断られ、鎌で重傷を負わせ、のち死亡させた)=6月18日付東朝=、「出齒龜病の伝染」(岡山県で14歳の少女が空き地で暴行され殺害)=同日付読売……。

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各地でのさまざまな犯罪に「出歯亀」の名前が冠せられた(國民新聞)

 7月2日付萬朝報には「丁抹(デンマーク)のデバカメ」まで登場。横浜に住むデンマークの33歳の男が26歳の女性を暴行して検挙された。あまりの“拡大”に、池田亀太郎の裁判には「元祖出齒龜公判」(6月25日付國民朝刊)の見出しが付けられた。

「出歯亀」の蔓延に亀太郎には「元祖」の「肩書き」が(國民新聞)

「そんなことは全く知りません。新宿署で刑事に圧制され、こらえられずに白状したんです」

 いったん延期された亀太郎の初公判は6月1日。注目された法廷の模様を“軟派”で知られた6月13日発行14日付都新聞で見てみよう。

 毛頭も覺(覚)えなし (昨日の出齒龜公判、被告事實(実)の全部を否認す)

 昨日はいよいよ大久保の色魔出歯亀の公判当日となったので、傍聴人は折柄の五月雨空に背中まではねを蹴上げて裁判所へ早朝より詰め掛けた。午前9時前には法廷の入り口はまるで飢饉年のお救い小屋で施行でも受けるような騒ぎ。廷丁がドアを開けると、潮が寄せるごとく瞬く間に満員の大人気。書生あり職人あり。中でも人目を引いたのは2人のひさし髪(の女性)。大久保辺の人らしく、小声で亀公のうわさをしている。

 検事の公訴提起理由朗読に対して亀太郎は「そんなことは全く知りません。新宿署で刑事に圧制され、こたえられずに白状したんです」と全面否認した。

初公判を挿し絵入りで伝えた報知新聞

「審理の進行上、風俗を害するきらいがあるゆえ傍聴を禁止す」「危険につき女人禁制」

 当日の足どりについての尋問が続くうち、立石(謙輔)裁判長は「審理の進行上、風俗を害するきらいがあるゆえ傍聴を禁止す」と宣告。傍聴禁止後の法廷で、「亀」は裁判長の尋問に答えて、「事件当日は朝から仕事をし、夜は酒に酔って自宅へ帰り、そのまま寝てしまったので、森山湯へも行かねば、被害者の湯上り姿をのぞいたはずもなく、まして殺すわけもない」と予審廷での申し立てを否認した(都新聞の要旨)。