ソニーの創業者で、天才的な技術者としても知られた井深大(いぶかまさる)氏が62年前に行った講演で、AI(人工知能)や自動運転など、現代の科学技術についてほぼ正確に予言していたことが分かった。当時の講演の音声を「週刊文春」は入手した。井深氏は1997年12月に89歳で亡くなっているが、今回発掘されたのは、東京通信工業からソニーに商号を改めてから3年後の1961(昭和36)年の肉声を記録したテープ。同年7月26日に、『エレクトロニクスの夢』と題して、井深氏が国際基督教大学で行った講演の音声がクリアな状態で残されていたのだ。発見したのは、ソニーの元人事部統括部長で、井深氏の晩年の付き人を務めた北島久嗣氏。井深氏の功績を記録に残すべく資料を収集し、評伝を執筆していたところ、この録音に行き当たったという。
講演は約30分。技術屋らしく論理的に話を進めていく(以下、〈 〉内はすべて同講演より)。
〈結論を先にいうと、エレクトロニクスの行きつく先は、『エレクトロニクス・コンピュータ』というようになると思う。コンピュータという言葉は誤解を招く恐れがある。掛け算をやる、割り算をやると計算機という名前から連想するが、もっと広い意味でアーティフィシャル・ブレインという意味でのコンピュータを考えなければいけない。コンピュータというものが、人間の頭の働き、人間の判断というものに相当、取って代わる形になってくると考えられている〉
〈アーティフィシャル・ブレインは、どんな働きをしていくのだろうか。これは今までもオートメーションという言葉で、生産のような場面で働いていたのだが、これが段々高度なものになってくる。(中略)自動車だけを考えても、自動車がハイウェイにあがってきたときにハイウェイには一本の電線が通っていて、そこにあるフリークエンシー(周波数)の電流が流れている、そこの上に自動車を持ってきさえすれば、あとは、ステアリングはオートマチックにエレクトロニクスでやられるし、前の車との間は非常に距離の短いレーダーのようなものでその距離を測って、自動的に速度の調整をやっていく。このように人間の判断を使わずに車を動かすということが考えられる〉