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 私は地震本部の事務局である文部科学省に情報公開請求をし、どのような検討がされたのか議事録で確かめてみた。

地震学者が採用を猛反対

 南海トラフ地震の30年確率は2001年(01年評価)と、東日本大震災以降に更新された2013年(13年評価)にそれぞれ発表されている。時間予測モデルは01年評価から採用されているが、当時は同モデルに対して大きな批判もなかった。

 しかし13年評価では検討委員の地震学者から「やり方一つ変えれば(南海トラフの30年確率は)20%にもなる数字だ」「時間予測モデルに対する批判や検証が必要だということは研究面からいろいろ出てきている」「サイエンスの議論をさせてもらうのであれば、(時間予測モデルを使うのは)妥当ではないと思う」と多くの批判が出た。

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 地震本部は大きく地震学者で作る「地震調査委員会」(地震学側)と防災の専門家や行政担当者などで作る「政策委員会」(行政・防災側)の二本柱で成り立っている。

 地震学側は、一度は時間予測モデルを不採用にし、新たな30年確率は単純平均モデルで計算する方向でまとまった。だがそれは確率が20%に低下することを意味する。30年確率は原則、地震学側だけで検討・公表するが、このときは行政・防災側にも意見が諮られ、「待った」がかかった。

行政側は「防災予算獲得の影響」を懸念

 行政・防災側の委員らを交えた会議で地震学側の提案は大きく2案。主文で時間予測モデルの高確率と単純平均の低確率の両方を載せる「両論併記」案と、時間予測モデルで出した高い確率だけを載せる「高確率案」だ。

 時間予測モデルは仮説のため、「科学的に問題がある」と言っても「完全に否定できる」とも言い切れなかった。地震学側はほぼ全ての委員が、高確率を排除するのではなく安全側にも立った「両論併記案」が最も適切だと主張していた。

 会議では当初、高確率案は低い確率を「隠した」と見られる恐れがあるとの意見から、「両論併記」が有力だった。だが「われわれ防災行政をあずかっている者」と名乗る委員の発言で潮目が変わる。

「確率を下げると『税金を優先的に投入して対策を練る必要はない』『優先順位はもっと下げてもいい』と集中砲火を浴びる」。同調するようにこんな発言もあった。

「何かを動かすときにはまずお金を取らないと動かない。これを必死でやっているところに、こんな(確率を下げる)ことを言われたら根底から覆る」

 確率低下が予算獲得を招くと述べる委員らの発言に、確率が科学的根拠に基づくべきだという配慮は見当たらなかった。せめて「参考値」として低確率を載せるという提案にも「(低確率を出したら)確率はこんなに下がると新聞の見出しに取られると覚悟して」「拒否権があるなら行使する」と猛烈に反対した。