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市役所と一体になった百貨店…「栃木」の“風情”が残すもの

 道路元標の脇から北を望むと、遠くに見えるのは「TOBU」の看板だ。その向いには、「栃木グランドホテル」の名も見える。

 

「TOBU」とは、東武百貨店のことだろう。百貨店とグランドホテルが向かい合うというのは、まさにザ・中心地。玄関口の栃木駅からは少し距離があるものの、こうした中心市街地が形成されている。これは県庁を失ってからも、栃木の町が一定の賑わいと存在感を保ち続けてきた証拠といっていい。

 などと思いながら、「TOBU」の看板の足下にやってきた。そこにはもちろんでっかい東武百貨店……と思ったら、なんとびっくり栃木市役所であった。

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「TOBU」もウソではなくて、市役所の建物の中に東武百貨店が入っている、というのが正確なところ。もともとこの場所には福田屋という栃木県内の地場百貨店があった。1990年にできたばかりだったが、経営の悪化で2011年に閉店。その跡に建物そのままに市役所が移転入居した。

 百貨店を失ったままではまずいと誰かが思ったのか、同時に東武百貨店も入っていまにいたる。ちなみに、もっと正確を期すと栃木市役所の東武百貨店は東武宇都宮百貨店。東武宇都宮駅の駅ビルである東武宇都宮百貨店の支店という扱いで、池袋の東武百貨店とはいわば兄弟関係にある。

 いずれにしても、この市役所&東武百貨店が、舟運の時代が終わってから一貫して栃木の町の中心であり続けてきた場所である。百貨店前の道沿いには年季の入った建物がいくつも建ち並ぶ。

 そのすぐ西側の巴波川沿いは、舟運全盛期の面影が色濃く残る。駅に近づけば、これまた昔ながらのザ・昭和レトロな商店街。このすべて、栃木駅から歩いても1時間とかからない。

 

 つまり、栃木という県の名を持ちつつも県庁を失った町は、江戸時代から明治、大正を経て昭和まで、日本人が刻んできた歴史を各所に残したままの町なのだ。ひとことでいえば、徹底的に年季の入った町、ということになろうか。

 巴波川沿いを中心とした蔵造りの町並みに限らず、町のあちこちにそうした歴史が息づいている。単に「小江戸」などという範囲には留まらない歴史都市。そう捉えれば、県名と同じ名を持つこの小都市の魅力が一層深まるような気がするのだが、いかがだろうか。

写真=鼠入昌史

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