2025年4月に開催が予定されている「大阪・関西万博」。建物の工事に関する動向や、ボランティアの募集などが報道されている。しかし、2024年1月に会場予定地を訪れ、また関係者に取材を重ねたノンフィクション作家の森功氏は、「これで万博開催に間に合うわけがない」と確信したという。

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下水道も電気も、舗装された道路もなく…

 咲洲から「夢咲トンネル」に入り、海の下の片側2車線道路を1キロほど走ると、人工島の工事現場に出た。2024年が明けて間もない1月初旬のことである。夢洲に造設されている「2025年日本国際博覧会」(通称大阪・関西万博)の会場予定地を自動車で訪ねた。

「世界最大級の木製リングをつくっています」

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 トンネルの出口からしばらく車を走らせると、万博会場の入り口付近にある垂れ幕が見えてきた。54年前のEXPOʼ70で評判を呼んだ「太陽の塔」に代え、大阪万博のシンボルとして建設している木製の大屋根である。建設費344億円をかけ、大林組、清水建設、竹中工務店のスーパーゼネコン3社が建設している。

建設途中の会場 ©共同通信社

 世界最大級の謳い文句通り、波打つ大屋根は横幅30メートル、高さが12メートルから20メートルある。その一周2キロの木製巨大リングが、博覧会のメインとなる海外パビリオンをぐるりと囲み、来場者が屋根の上と下を回遊する趣向である。リングの外側には、建設中の地元「大阪ヘルスケアパビリオン」やホスト国の「日本館」をはじめ、パナソニックやパソナといった日本企業のパビリオンが点在している。それらの多くはコンクリートの基礎工事が終わり、鉄骨がむき出しになっている。どことなく姿かたちをイメージできるパビリオンもあった。

 しかし、予定地全体を見渡せば、他は土の地面が露出し、まるでだだっ広い野原のようだ。なにより、すでに2025年4月の万博開催まで1年3カ月を切っているというのに、まるで工事現場の活気がない。海外パビリオンに先行して建設されてきたリングでさえ、1月初旬の時点では3分の1もできていなかった。

 夢洲は大阪湾の人工島として埋め立てられた。そこが長らく放置されて未開発となる。東側の一角がコンテナターミナルとなっているが、今も下水道すら整備されておらず、電気も通っていない。

 万博の会場内はアスファルト舗装された道路もなく、砂利道が迷路のようにロープで区切られている。そのせいで何度も切り返したりUターンしたり、迷いながら運転した。埋立地だけに水はけが悪いのだろう。アスファルトの舗装の代わりに、ところどころに鉄板を敷いて泥濘を防いでいるが、水たまりがいたるところにできている。車で走っているうち、うっかりそこにはまって泥水を跳ね上げてしまった。

 舗装された道路がないと、ダンプが工事用の資材を運ぶのにも難儀する。通常、こうした博覧会場の土地整備をする場合、まずはインフラが必要だが、この時期に排水用の側溝を掘る工事をしていたから驚くほかない。さぞかし工事現場は混雑しているだろうと予想していたが、工事車両とすれ違うこともほとんどなく、文字通り閑散としていた。

 これで万博開幕に間に合うわけがない。それが現場を見てきた率直な感想だった。そして取材を進めていくと、それが確信に変わった。