「高齢者虐待は、在宅介護によって家族間で起こる虐待と、施設の中で起こる職員による虐待に大別することができます。当センターに寄せられる相談としては、在宅介護で起きる虐待案件が多いですね。被害者の年齢は80代が最多ですが、65歳から69歳の比較的若年層でも虐待被害は報告されています」
全国的に見た場合、養護者による高齢者虐待では年齢的な特徴はさほどないが、被害者は圧倒的に女性が多く75.6%で、男性は24.4%だ。加害者は大半が身内で、息子(38.9%)、夫(22.8%)、娘(19%)、息子や娘の配偶者(3.7%)だ。身近にいる人ほど、虐待加害者になる可能性が高いということになる。
虐待の種類は、身体的虐待(67.3%)、心理的虐待(39.5%)、介護等放棄(19.2%)、経済的虐待(14.3%)、性的虐待(0.5%)の順だ(複数回答)。通報者としては、本人(2.9%)や家族・親族(5.7%)は意外に少なく、デイサービスの職員やケアマネージャーなど職務上知り得た者(69.3%、介護支援専門員+介護保険事業所職員)がもっとも多い(いずれも「介護保険サービス」を受けている高齢者における割合)。
被害者に認知症や精神疾患があり、加害者が身内であることを考えれば、自ずとそうなるのだろう。(以上、厚生労働省「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」による)
高齢者虐待の発見が難しい理由
中村氏はつづける。
「高齢者虐待は児童虐待とは違う特徴があります。当センターに寄せられる相談を聞いていると、自治体もそのことで大変な苦労をしているのがわかります。よく寄せられる質問として、『高齢者を保護したものの、被害者に認知症があって、自宅に帰りたいと訴えている。どう対応すればいいか』とか『経済的虐待を判断するポイントを教えてほしい』といったものがあります。
児童虐待の場合は、明らかな虐待行為があれば、児童相談所が子供の意思とは別に強制的に保護しますし、親が子供から金銭を奪うような経済的虐待はほぼありません。しかし、高齢者虐待では虐待があっても本人が家を出ることを拒んでいるとか、財産を不当に取られるといったことが起こりうる。そうした人たちを保護して問題を解決するのはとても難しいのです」
被害者が認知症を患っていると、本人が虐待の被害を自覚するのが困難だ。親と虐待をする子供が共依存になっていることもある。そうなれば、虐待が起きていても、なかなか、被害者の同意を得て保護することができない。
これは経済的虐待も同じだ。高齢者が寝たきりになれば、介護者である子供に全財産を託すのはやむをえない。また、子供が介護離職して無収入になれば、その報酬として親に金銭を求めることもある。財産の額も人によって違うので、どこからどこまでを経済的虐待とするかの線引きは容易ではない。