「高齢者を保護して問題を解決するのはとても難しいのです」

 日本全国で起きた高齢者虐待の件数は1万7000件…高齢者虐待の解決が進まないワケとは? ノンフィクション作家・石井光太氏の新刊『無縁老人~高齢者福祉の最前線~』(潮出版社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

なぜ高齢者虐待の発見は難しいのか? それを取り巻く状況を専門家に尋ねてみた(写真:アフロ)

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被害件数1万7000の衝撃

 12月の初旬、雪の降る北海道に降り立った私が向かったのは、札幌市中央区にある「北海道高齢者虐待防止・相談支援センター」だった。北海道社会福祉協議会(社協)が運営する同センターは、道内の高齢者虐待に関する啓発、相談、支援を行っている。

 2021年度に、日本全国で起きた高齢者虐待の件数は1万7000を超えた。このうち、養介護施設従事者等によるものが739件、子供など養護者によるものが1万6426件だった。

 高齢者虐待の種類は5つ。「身体的虐待」「ネグレクト(介護等放棄)」「心理的虐待(言葉の暴力)」「性的虐待」「経済的虐待(親族等が高齢者から経済的搾取を行う)」だ。被害者の7、8割は認知症患者だとされている。

 北海道高齢者虐待防止・相談支援センターは、北海道内で起きている高齢者虐待をすべて認知症患者だとされている。

 北海道高齢者虐待防止・相談支援センターは、北海道内で起きている高齢者虐待をすべて管轄しているという点で稀有な存在だ。一般的には、家庭からの通報は各市区町村に設置された地域包括支援センターが対応するのだが、広い北海道では地域によって案件に差があり、職員のスキルや虐待の内容に偏りが出やすい。そこで同センターが中核的な役割を担い、各市町村から寄せられる対応相談を受けたり、北海道全体としての啓発活動を行ったりしているのだ。

 今回取材に応じてくれたのは、センター所長の中村健治氏(58歳)だ。中村氏は話す。