――どうりで生々しいシーンが多いんですね。ところで、映画では母娘の関係をメインに描きつつ、周囲の無理解を描いているのも印象的でした。
平田 これは二極化したくない問題ですが、新興宗教で悩んでいる人にとって周囲の支えがあるかどうかは大きな要素です。取材した実感として、周囲の支えがあると立ち直れる人が多く、逆の場合は鬱になったり自死を選んだりしてしまう人が多いんです。だからこそ、宗教二世は家族の問題だけではなく、社会の問題なのだと分かって欲しくて同級生のいじめも描きました。
宗教二世が親から離れない理由
――確かに、「変なことをしている奴らだ」という偏見の存在は否定できません。ただ、死ぬほどつらいなら「どうして親元を離れないんだろう」という疑問もわいてきます。映画でも主人公は周囲から助けの手を差し伸べられても母親のもとに戻ってしまいます。
平田 大きな理由は親への愛と同情です。子どもとはいえ、親の事情を察してしまうのだと思います。「お母さんも辛いんだな」「宗教が心の支えなんだな」って……。たとえ虐待されていたとしても、親が憎い訳ではないんです。だから、自分の心を殺してしまう方がまし、という思考になってしまうんです。
――まさに自分の心を殺した主人公が、母親を抱きしめるシーンは印象的でした。
平田 私自身は虐待されてませんが、取材で聞く限りでは、子どもはたまに見せる親の優しさに期待してしまうんですよね。あの優しい親が忘れられなくて、期待に沿うようなことをしてしまうんです。まるでDVの加害者と被害者の共依存関係のように。
――映画は救いのないバッドエンドで終わってしまいます。なぜ、このようなラストにしたのでしょうか。
平田 実は、あのラストの後には浜辺を歩くすずを映した希望を持たせたシーンが予定されていました。でも、取材した方々のお話を思い返すと、知り合いや家族に自死した方が多いんです。結局、やっぱりリアルに描かないとダメだと、全カットしました。ドローンまで使って、そこそこお金かかったんですけどね。
300人もの宗教二世の方々の、そして、死を選んでしまった二世の方々の声が、あのラストを作ったんだと思います。全く後悔はしていません。見た人の心に残る映画になったと思いますし、宗教二世問題とは縁がないと思っている方にも考えるきっかけになるんじゃないかと思います。