自治体のルールではそこまで細かく決まっていないが、もともとの旅費の配当予算が少なく、学年の先生全員で下見に行く必要はないとの校長先生の考えで、旅費の支給が滞っていた案件だった。
「え、やっぱり1人分しか出せないんですか?」
ミカ先生の隣で岸川先生が不満そうに声を上げた。「そうなんです」と縮こまる教頭をこれ以上責めるわけにもいかないが、納得はいかない。
「トイレの場所とか、何かあったときの避難ルートとか、1人だけみてきても下見とはいえないでしょう。なるべく多くの人数で下見しないと、安心して修学旅行に行けませんよ」と、ミカ先生は以前にも主張したことをもう一度繰り返した。吉井先生は「本当に、その通りです」と頭を下げるけれども、吉井先生は悪くない。
「後で、主任と相談してみんなで割り勘にします」と応じるしかなかった。岸川先生はまだ不満げだったけれど。
家庭訪問の駐車場代
今日は夕方に、学校を休みがちな徳田くんの家を訪問する約束がある。
この学校は校区が広くて、なかには徒歩1時間かけて通学してくる子もいる。バスの便があまりよくないのでバス通学も難しい。そのため、家庭訪問用に、教職員で共有する自転車が1台ある。しかし、今日はタイミングの悪いことに先約があったようで、共有している鍵置き場には鍵がなくなっていた。ミカ先生は仕方なく、自家用車で徳田くんの家に向かった。
駐車場代が自腹になるけど、遅刻しないためには仕方ない。久しぶりに会った徳田くんはいろいろ話したかったようで、1時間たっぷりと会話をしてくれた。徳田くんが学校にきたときに気をつけてみよう、と思うことを、いろいろと聞くことができた。ミカ先生は駐車場に戻って、600円の精算をした。校区内は近距離とみなされ、この駐車場代は請求できない。
ふと気づくと、もう下の子を保育園へ迎えに行く時間だ。慌てて下の子を拾い、スーパーに寄って帰宅する。ごはん、お風呂を経て、子どもの宿題の面倒、明日の保育園の準備をしてから子どもが布団に入るまでは、まったく休めない。時計の針が午後9時を回った後、ミカ先生はようやく自分の時間を取ることができる。最近はこの時間を教材研究に充てている。