残念ながら私はひとりっ子なのですが、父に、「私が男の子だったらどんな名前にしてた?」と聞いたことがあって。
母になって分かった、「名付け」の重み
――気になります。
金井 「男の子だったら漢字の熟語で、『人生』とか『世界』、『宇宙』にしたかった」と言っていて。あ、男でもそっちだったのね、と(笑)。まあでも、それはそれで、もらった名前を大切にして生きていたんだろうなとも思います。
――お父さんに、並々ならぬこだわりを感じます。
金井 父は新聞社の記者をしていることもあり、言葉がとても好きな人なんです。私の名前も、「輝き」「詳らか(つまびらか)」「厳か(おごそか)」など、他にたくさん候補があったと聞きました。結局、考えすぎて収拾がつかなくなったそうで、最後は辞典をひっくり返して「あ」から読みはじめて、「憧れ」になったとか(笑)。
――金井さんもお母さんになったことで、「名付け」をする立場になりました。
金井 自分が母になってはじめて、「名付け」の重みがわかりました。特に母は、小さいときは日々、持ち物などに私の名前を書いていたでしょうし、学校では、「憧れの母です」と言っていたんだと気づきました。
親は子どもに名前の“付け逃げ”なんてできない
――名前を背負っていたのは金井さんお一人ではなかったと。
金井 母は最近亡くなってしまったのですが、笑い話でも、「私だって『憧れの母です』って言うのは恥ずかしいよ」みたいなことは一回も聞いたことがなくて。
当時は自分のことばっかりだったけど、きっと母も、「憧れの母」であるために頑張っていたんだと、今さら深く思います。
――改めて、「憧れ」というお名前に対する思いを聞かせてください。
金井 若いときはずっと、両親に名前を“付け逃げ”されたと思っていました。「親は、いい名前を付けられた。はい、終了」ってできていいよね、と考えてたんです。
でも、親になってはじめて、“付け逃げ”なんてできないのだと思い知りました。お母さんに今聞けるなら、「そんなことに今頃やっと気づけたんだけど、『憧れ』って名前を娘に付けてみてどうだった?」と、たずねてみたいですね。
写真=鈴木七絵/文藝春秋
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