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中国、ウクライナ、アメリカ…「連邦議会襲撃事件」を予言した政治学者が語る“内戦の起きやすい国”とは?

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「アノクラシー」が危ない

 第一の変数は、「アノクラシー」と呼ばれるものです。

 世界には、民主主義の特徴を持つ国、独裁的専制の特徴を持つ国がありますが、その中間にある「アノクラシー」と呼ばれる政体の国があります。この「部分的民主主義」と呼ばれる国家では、政情不安や内戦に至る危険性が、「専制国家」の2倍、「民主主義国家」の3倍にも及んでいたのです。

 

 北欧のような十全な「民主主義国家」で内戦が起きることはほとんどありません。北朝鮮のような抑圧的な「専制国家」で内戦が起きることもほとんどありません。例えば中国には、反乱を起こすだけの理由を持つ集団が数多く存在しますが、実際に反乱を起こすチャンスは彼らにはありません。他方、民主主義国家にも不満を持つ集団が存在しますが、システムを変えるための暴力以外の平和的な方法を彼らは手にしています。「内戦」はいずれでもない「中間的な政体」で起こるのです。

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 ある国がどの程度まで「民主的」か「専制的」かを該当年ごとに数値化した「ポリティ・インデックス」──プラス10(最も民主的)〜マイナス10(最も専制的)──では、プラス10〜プラス6なら「民主主義国家」とみなされ、マイナス10からマイナス6なら「専制国家」とみなされますが、その中間に位置するプラス5〜マイナス5が「アノクラシー」に該当します(下の表参照)。

 

 私たちの当初の予想に反して、内戦リスクが最も高い国は、「最貧国」でも「不平等国」でもなく、さらには「民族的・宗教的に多様な国」でもなく「抑圧度の高い国」でもありませんでした。むしろ部分的に民主主義が機能する社会、すなわち「アノクラシー」──専制国家から民主国家への移行過程、民主国家における民主主義の退行過程──の国において、「内戦」が起こるリスクが高かったのです(グラフ参照)。

 ただし、すべてのアノクラシー国家が内戦に陥るわけではありません。シンガポールのように、長年、専制的な国家体制が保持されながらも、暴徒化することなく、平和と安定を見出す国も存在します。