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中国、ウクライナ、アメリカ…「連邦議会襲撃事件」を予言した政治学者が語る“内戦の起きやすい国”とは?

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アイデンティティによる分断

 ──もう一つの変数は何ですか。

 ウォルター 「民族、宗教、人種的アイデンティティによる政治的分断の激化」という変数です。

米連邦議会議事堂を占拠するトランプ氏の支持者たち ©EPA=時事通信社

 ただ誤解してはならないのは、多民族を抱える国が他国より必ずしも内戦が勃発しやすいわけではない、ということです。

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 タスクフォースでは、「国内の民族・宗教グループの数と種類」よりも「民族がいかなる権力と結びついているか」を分析することで、一つのパターンを発見しました。内戦に陥る国には、「イデオロギー」より「民族、宗教、人種的なアイデンティティ」に基礎づけられた「政党」が存在し、他者を排斥する「派閥主義(factionalism)」の特徴が見られるのです。

 例えば、冷戦後の旧ユーゴスラビアでは、セルビア人かクロアチア人かボスニア人かで政党が組織され、各指導者は、首尾一貫した政治綱領をもつわけではなく、権力の獲得と維持のためなら民族的・宗教的ナショナリズムに訴えることも厭いませんでした。チトー元大統領がそうしたように、共産主義、自由主義、コーポラティズムなど、それぞれの「政治信条」による組織化も可能だったはずですが、そうはならなかったのです。

 アイデンティティに訴える政党は、政治信条に基づく政党よりも柔軟性を欠き、妥協をいっさい拒否します。ユーゴが内戦に突入したのは、クロアチア人、セルビア人、ボスニア人が互いに消しがたい憎悪を抱いていたからではなく、機会主義的な指導者が、恐怖や憎悪を掻き立て、権力獲得のために小規模の武装集団を利用したからです。同じ悲劇がルワンダのフツ族とツチ族の間でも起きました。

 タスクフォースでは、この二つの特徴──アノクラシーとアイデンティティによる政治的分断──を持つ国を「監視リスト」にピックアップし、ホワイトハウスに提出していました。会合では、「エチオピアで何が起きているか」などと世界中の国について情報交換をしましたが、ただ米国については議論する機会はありませんでした。そもそもCIAには米国内に関する調査は、法的に認められていないからです。

 しかし私は民間人です。米国のことも調べてみると、「ポリティ・インデックス」のスコアが、2016年に「プラス10」から「プラス8」に下がっていることに気づいたのです。そこで私は、米国の政党に目を向けて、何が起きているのかを二つの変数に注目しながら本格的に調べ始めました。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「米国で南北戦争が再び起こる日」)。

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