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「スパイらしからぬ」あまりに堂々とした振る舞い

 訪米経験が豊富な韓国大統領府の元高官は「米国にはA、B、Cの各級にランク付けされたロビイストがいる。訪米する際、カウンターパートではない米政府当局者や米議会関係者に会いたいときに、ロビイストを使った」と語る。

 最も高い報酬が必要になるA級のロビイストであれば、面会したい米上下両院議員に直接連絡して、アポ取りをしてくれたという。やや格が落ちるB、C級のロビイストは米議会補佐官などを経験したコリアン・アメリカンなどで、在米韓国大使館にほぼ常駐した状態で、仕事をしている。

 B、C級であれば、上下両院議員に直接電話はできないまでも、補佐官ら関係者らに連絡して、アポ取りをしてくれたという。みな、FARAに基づき、外国代理人として登録されている。

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 ただ、登録されていないロビイストでも、面会の仲介をしてくれる人は大勢いる。テリー被告の場合、起訴状を見る限り、定期的に対価を受け取っていたわけではなさそうだ。前出の元韓国大統領府高官も「テリー被告をロビイストとみるのは少し無理があるのではないか」と語る。

 そうであれば、FARA違反を起訴の理由にしつつも、テリー被告が米国の機密情報を外部に漏らすことを防ぐ狙いが大きかったということなのだろう。テリー被告は2001年から8年間、CIAで分析官を務めたほか、オバマ政権の国家安全保障会議(NSC)などでも働いた。

スミ・テリー氏は韓国・ソウル生まれで米・バージニア州育ち ©時事通信

 ただ、現在は民間の研究者に過ぎない。起訴状では、ブリンケン国務長官らが出席した非公開の会議の情報を国情院側に流したとされるが、元米外交官は「非公開とはいえ、民間を加えた会議であれば、それほど高度な情報を共有しているわけではない」と語る。

 この元米外交官は「過去はともかく、急いで取り締まらないと、高度な機密情報が流出してしまうという切迫した状況ではなかったのではないか」と話す。

 こうした証言に照らし合わせてみると、「重大な情報漏洩」というよりも、韓国側の「スパイらしからぬ」あまりに堂々とした振る舞いに、今回の摘発の原因があったのかもしれない。

元米外交官が分析「トランプ陣営がこのスキャンダルを指摘する可能性」

 事実、前出の元米外交官は「今年は選挙の年だ。トランプ陣営がこのスキャンダルを指摘する可能性を踏まえ、あらかじめ、摘発した可能性がある」と語る。その他にも、「中国やロシアのスパイたちに警告するため、この事件を表面化させた」という説も出ているという。

 いずれにしても、国情院OBたちが嘆いた、「国情院職員の質の低下」が今回の事態を招いた可能性は少なからずあると言えそうだ。

 米国にはFBIやCIA、国家情報長官室などに、それぞれ韓国を担当する部署がある。こうした部署の人間のうち、分析担当者らは在米韓国大使館職員と接触し、協力し合うが、監視担当者らは表に出てこない。

 また、米国は同盟国の韓国や日本であっても、ファイブ・アイズが共同運営するエシュロンも含めて盗聴などの情報収集行為を続けている。国情院の元職員の1人は「情報の世界では当たり前のこと。油断した方が悪い」と語った。