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 韓国では、保守系メディアが「大半が文在寅政権当時に起きた問題だ」という論陣を展開する一方、進歩(革新)系メディアは「尹錫悦政権も日韓関係に関する論文執筆を依頼していた」と批判するなど、政治問題化している。

 しかし、テリー被告と韓国との関係は、保守政権でも進歩政権でも続いていたわけだから、「政治的に保守・進歩のどちらが悪いか」という問題ではなさそうだ。

元国情院職員は「スパイのイロハも知らない行為」と...

 米国や日本で情報収集活動にあたった知り合いの元国情院職員らの見方は、韓国メディアの論調とは異なる。彼らが一様に口にしたのは、「情報機関としての質の劣化」に対する嘆息と危機感だった。

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 元職員の1人は「聞いてみたら驚くことばかりだ」と語る。元職員によれば、重要人物と接触する場合、外交車両は使わず、尾行者の有無を必ず確認しなければならない。

 国情院がテリー被告に贈った品物の値段や資金規模は「驚くほどではない」とする一方、「なぜ、品物の購入にカードを使ったのか理解に苦しむ」と話す。証拠が残るカードを使ったのはもちろん、外交官の身分証明書まで見せて無税扱いにするなんて、「スパイのイロハも知らない行為」だと話す。

スミ・テリー氏は、08年からアメリカの国家安全保障会議のメンバーを務めていた ©時事通信

 それでなくとも、米国の監視網は徹底している。米国で働いた別の元職員は「米国ではFBIの監視からは逃れられないと覚悟すべきだ。裸で歩いているようなものだ」と話す。

 携帯電話は常に盗聴されているという前提で行動しなければならない。「携帯がダメなら、公衆電話で」というわけにもいかない。ターゲットの自宅の周囲のどの位置に公衆電話があるのか、ターゲットが盗聴を避けようとした場合、どの公衆電話を利用しようとするのか、先刻ご承知だ。FBIは先回りして、公衆電話も盗聴の対象にしているという。

 前出の元職員の1人は「レストランでルーム(個室)を使わないとは。わざわざ、撮影してくれと言っているようなものだ」と話す。

スパイ教育できる環境が整っていない

 確かに、国情院は近年、坂道を転げ落ちるように弱体化の道をたどってきた。金大中政権時代の1999年、国家安全企画部を国情院に改編し、国内情報部門を縮小した。

 2008年に発足した李明博政権は経済情報に力を入れるとして、国情院の組織改革を進めた。文在寅政権時代の決定により、2024年1月、スパイ活動などを捜査する対共捜査権が国情院から警察に移された。

 さらに、文在寅政権当時に、国情院長経験者3人が相次いで逮捕されるなど、政権交代のたびに、権力の象徴の一つだった国情院が粛清の対象になった。そのたびに幹部たちが「ムルガリ(水槽の水を取り替えるような一掃人事)」に遭った。前出の元職員は「今の国情院には、スパイ活動のイロハを教育できる環境が整っていないのではないか」と懸念する。

 それにしても、不思議だったのは、蜜月と言われているバイデン政権と尹錫悦政権のもとで、どうしてこのような醜聞が表面化したのかという点だ。