『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のギレルモ・デル・トロ監督を始め、多くのアカデミー賞監督を輩出しているメキシコから、有望な女性監督が登場した。長編2作目にして注目を浴びる新鋭、リラ・アビレスさんだ。
「舞台の衣装や製作に関わっていましたが、いつかは映画監督になろうと思っていました。映画製作は学んだことがなく独学です。従来の映画的な文法から離れて、自由に作品を作りたいのです」
新作『夏の終わりに願うこと』は、癌を患い実家で療養中の父との久しぶりの再会に心を揺らす7歳の少女ソル(ナイマ・センティエス)の1日を描く人間ドラマだ。アビレスさん自身の私的な経験から生まれた物語だという。
「私はかなり若い時に出産し、娘を授かりましたが、娘の父親は若くして他界しました。この映画は、その体験を反映し、娘のことを想って作りました。とはいえ、すでに娘は18歳。この作品をどう思うのか心配だったのですが、完成した作品をベルリン国際映画祭で見て、とても感動してくれました。私にとっては最大の喜びでしたね」
余命いくばくもない父の誕生日を祝うために家族が集う。せわしなくパーティーの準備をする叔母たち、盆栽に夢中な祖父、自由気ままに振る舞ういとこ達。ソルの視線を通して、愛情とやっかいさが混在する家族の人間模様が、まばゆいメキシコの光の中で鮮やかに浮かび上がる。
「この映画の主題は、家族です。家族はまさに小宇宙ですからね。精神的、肉体的に疲れてしまった時でも、家に帰るとほっとする――。家族のいる風景としての家を描こうと思いました。また、なにか大切なものを失った時は、人はとても弱く壊れやすくなります。一方、その悲劇によって団結が強まることもありますよね。私にも、これで自分の人生は終わりかな、と思った時期がありました。でも、人生は続いていく。人は変わり、そして成熟していくこともできるのです」
ソルを取り巻くのは人間だけではない。犬や猫、カタツムリやアリなどの身近な生き物にカメラは寄り、生命の息吹を捉える。「死」が身近にあるからこそ際立つ命のきらめき、親密さ、ぬくもりといった手触りは、本作の魅力のひとつだ。
また、病気快癒のために厄払いの儀式が執り行われるシーンには、南米のマジックリアリズムを彷彿とさせるスピリチュアルな雰囲気が漂う。
「本質的にスピリチュアルなものに惹かれる」というアビレスさん。「日本という国にも精神的に親しみを感じます。小津(安二郎)も敬愛する監督のひとり。日本には物事の本質を端的に捉えようとする精神がある。そのミニマリズムには大いに共感します。今回、日本を訪れ、神社や寺を訪問できたことはたいへん素晴らしい経験でした」
Lila Aviles/1982年メキシコ生まれ。映画監督、脚本家、プロデューサー。舞台美術と映画脚本を学び、俳優としてキャリアを積んだあと製作側に転向。初の長編映画『The Chambermaid』(18/日本未公開)は、第92回アカデミー賞国際長編映画賞メキシコ代表に選出。また国内外の賞を多数受賞。
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映画『夏の終わりに願うこと』(8月9日全国順次公開)
https://www.bitters.co.jp/natsuno_owari/index.html