日本の母子家庭の貧困率は、51.4%。実に、2人に1人が貧困である。多くの女性たちは、正規雇用で就職したあと、結婚・出産を機に退職し、専業主婦やパート主婦になるが、夫との離死別などにより簡単に最下層に転落してしまう。なぜ、そのような格差がうまれてしまうのか?

 ここでは、「階級・格差」研究の第一人者・橋本健二氏が、「女性の階級」の実態を綴った書籍『女性の階級』(PHP新書)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

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研究対象から除外されてきた女性たち

 男性と女性とでは個人年収がまったく異なり、しかも女性内部の格差は男性内部の格差より明らかに大きい。だとすれば、格差に関する研究においては、男性以上に女性が重要な研究対象となってもよさそうである。ところが実際には長い間、女性は重要な研究対象とはみなされず、それどころか研究対象から除外されることすらあった。

 格差に関する研究は、社会学、経済学、社会福祉学、社会医学など、多くの分野で行われている。しかし研究者の人数からみて、また論文や著作の数からみても、もっとも活発に研究が行われてきた分野は、社会学だといっていいだろう。

 社会学には、格差の問題を専門に扱う分野がある。それは、階級論あるいは社会階層論、ひとまとめにして階級・階層論、あるいは階級・階層研究と呼ばれる分野である。階級・階層論の研究者たちは、社会の格差の構造を階級構造、あるいは階層構造と呼び、現代社会の階級構造や階層構造はどうなっているのか、そして人々はどのような階級や階層に区別されるのかということについて、理論的・実証的に研究してきた。

©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 そして家族社会学や都市社会学、社会意識論など、社会学の他の分野の研究者たちは、階級・階層論の研究者たちの研究成果を基礎としながら、家族のあり方は階級・階層によってどのように違うのか、都市にはどのような階級構造や階層構造があるのか、人々の意識は階級や階層によってどのように違うのか、などといったことについて研究する。その意味で階級・階層論は、社会学の基礎となる重要な研究分野だということができる。

 階級・階層論の分野では、「一億総中流」などといわれて格差の問題に対する社会的関心が薄れていた時期にも、それなりに活発に研究が行われていたが、「格差社会」が流行語になって社会的関心が集まった2000年代半ば以降になると、若い研究者も増えて、研究の幅が大きく広がるようになった。