実は安倍政権にとっては皮肉なことだが、官邸の外交安保政策を牛耳る谷内正太郎国家安全保障局長がマクマスター補佐官としばしば接触、同補佐官からの情報に依存してきたと想定される。そのためか、安倍政権は昨年9月以降、関係閣僚らも含めて、対北朝鮮政策は徹頭徹尾、「最大限の圧力」で対応してきた。
マクマスター氏が昨年2月に就任後、両者は2月22日から8月3日まで少なくとも8回電話で会談。谷内氏が訪米して2月28日にワシントン、8月と今年1月、3月にサンフランシスコで計4回、と頻繁に会談した。しかし、マクマスター氏が大統領の真の意向を把握していたとは言い難いようだ。日本は、マクマスター氏の更迭も予測できなかったとみられる。
経済分野でも、麻生太郎財務相とペンス副大統領が中心となって「日米経済対話」を進めたにもかかわらず、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置では、中国、ロシアとともに当初から適用除外の対象とはされず、日米間の意思疎通を欠く事態が続いている。
(4)政策論争をしなかった安倍首相
異形の米大統領トランプ氏への対応をめぐって、各国首脳は頭を悩ませている。中でも注目されているのは、トランプ氏と比較的関係が良好な安倍首相とフランスのマクロン大統領の間のトランプ氏へのアプローチの仕方の違いだ。
安倍氏はゴルフなどを通じて親密な個人的な関係をアピールしようとしており、政策的な違いは表面化させていない。
他方マクロン氏は、トランプ氏と方向は違うが「改革派」の大統領として、政策的な議論を強調している。イラン核合意の問題でも、マクロン氏は今年4月の訪米で、合意からの「離脱」を決めつつあったトランプ氏に対して、合意に問題点があることを認めながら、破棄せずに新たに3項目の追加条項を設けるよう働きかけた。
北朝鮮の問題では、安倍首相は結局、トランプ大統領の真意が掴めず、「誤算」も重なり、拉致問題への取り組みが遅れる形になった。安倍首相としても、もっと早くから北朝鮮に関する政策的な課題をトランプ氏と議論すべきだったのではないか。「笑顔で大統領ににじり寄る」といったイメージでみられていては尊敬されない。