松原 仲間でしかわかりあえない辛さや苦しさがたくさんあったでしょうし、そうやって励まし合える女性たちがいたからこそ、ハルエさんや安江善子さん(注:「性接待」の犠牲者となった女性で、ハルエさんと共に公の場で「性接待」の事実を告白し、「乙女の碑」建立を主導した。2016年没。)は外に向かって話そうと決意できたんだと思います。

 その下の世代の女性たちも、ハルエさんたちをずっと支えてきたんです。満州ではまだ幼くて、「性接待」に出る女性たちの風呂焚き係をしていた安江菊美さんは、犠牲になった女性たちにずっと寄り添いながら、最後まで支え続けた。藤井宏之さんの妻である藤井湯美子さんのサポートも大きなものでした。女性たちが犠牲になって、その後もずっと苦しんでいたのに、遺族会は何もしないどころか、声をあげようとする人たちを抑えつけてきた。そのことに湯美子さんはずっと怒っていたんです。だからずっとハルエさんたちに寄り添い、宏之さんと共に碑文の設置に尽力した。被害を受けた方たちが尊厳を回復できたのはまさに、互いを支え合う女性たちの連帯があったからこそなんです。

©テレビ朝日

――映画では彼女たちの声を封じ込めていた人たちの存在も浮かび上がってきますよね。ある男性は、「こういうことは彼女たち自身を傷つけるんだから、絶対に公にしてはいけない」とカメラに向かってはっきりと言います。

ADVERTISEMENT

松原 彼は中々取材に応じてくれていなかったんですが、映画ではなぜ彼女たちが長いこと被害を口にできなかったのか、その背景も伝えたいと思ったので、改めて取材に行きました。彼は碑文の設置にずっと反対していた人ですが、それは彼個人の問題というよりそういう社会で生きてきたからだと思うんです。やっぱり圧倒的に男社会でしたよね。だから性暴力に対する理解が乏しいまま、本来は犠牲者であり守るべき存在である被害者の声を抑えつけることまでしてしまったりする。被害を知られれば偏見の目で見られる、だから言わないでいる方が彼女たちのためなんだ、というのは明らかに間違った考えなんですが、彼にも彼なりの論理があるということを見せたくて、取材をお願いしました。