――2018年から2024年まで、途中コロナの時期も挟みつつ撮影を続けてきたなかで、自分が撮影することによって、何か変化が起きたなという実感はありましたか?

松原 彼らからすると、碑文を作り、玲子さんにも会えた。そしてハルエさんが亡くなり、ある意味でひとつの時代が終わった感覚ではあったはず。でもその後もお孫さんたちの撮影をしたりと私がずっとカメラをまわし続けていたことで、宏之さんたちにとっては再度この問題を考えていく機会になり、今度はこの歴史を自分たちの次の世代に継承していかなければという気持ちになったそうです。こういう映画があることで、後世に史実を伝えるいい機会になるはずだと言ってもらえたのは、とても嬉しかったですね。

尊厳を取り戻すためにも自分の口で怒りや苦しさを表すのは大事なこと

――映画界でも芸能界でも、近年、多くの性暴力・性加害の事件が公になってきましたが、一番の問題は、事件が起きても被害者が声をあげられずにきた、そしてその声を誰も聞こうとしなかったことだと思うんです。それはまさに社会の側の問題ですよね。性暴力を受けたことを恥だと思わせたり、言わないでおいた方が自分のためにもなると思わせたり、そうやって被害者の口を塞ぐ風潮はいまだに強くあると思います。

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©テレビ朝日

松原 本当にそうですよね。性暴力となった途端、烙印を押され、声を封じ込められてしまう。その間違った構造はいまだに大きくは変わっていない。私自身は、必ずしも今の性暴力の問題を意識してこの映画をつくったわけではありませんが、こういう社会の風潮を打ち破ったのがここに映る女性たちなんだということ、そして彼女たちの家族がそれを誇りに思ってくれる姿を映したかったのはたしかです。被害体験を語ることはとても難しいことかもしれませんが、本来は、尊厳を取り戻すためにも自分の口で怒りや苦しさを表すのは大事なこと。そのためにも周囲の理解が本当に重要なんだと、問われているのは聞く側なのだということを、この映画を通して知ってもらえたらと思います。