取材を打診していたところ、黒川の森に慰霊碑として建立されていた「乙女の碑」に、新たな碑文を加えることが決まったと開拓団遺族会の藤井宏之さんから連絡がありました。黒川では、敗戦後の混乱で亡くなった大勢の仲間の死を悼むため、慰霊碑を建て長年慰霊祭を行ってきたんですが、「性接待」のことだけはずっと伏せられてきたんです。若い女性たちの死を悼む「乙女の碑」が建てられても、やはり「性接待」については触れられなかった。でもハルエさんたちの証言に促された宏之さんたちは、彼女たちの犠牲を史実として残さなければいけないと決意し、ついにその事実を記した碑文を完成させた。その式典にハルエさんも出席されるということで、そこから私の取材が始まりました。

 碑文ができた11月18日の夕方のニュースで2分程の映像を放送した後、もう少し詳しい話を聞いていこうと、ハルエさんや他の方々に話を聞いていき、2019年8月に報道ステーションの特集と「史実を刻む~語り継ぐ“戦争と性暴力”~」と題してテレメンタリーで放送されました。その後11月には、1時間に拡大したバージョンも放映されました。

©テレビ朝日

――最初は、碑文ができるということで取材に行かれたわけですね。

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松原 黒川の人たちにとって、「性接待」の事実は不都合な歴史であり、しかも現在の遺族会会長である藤井宏之さんにとっては親の世代が行ったこと。それでもその過去を引き受け後世に伝えようと、遺族会は碑文を作ったわけです。当時世間では財務省による文書改竄のニュースが取り沙汰されていました。政府や国が不都合な事実を簡単に書き換えてしまう一方で、親の世代の負の歴史を引き受け記録として残そうと決めた人々がいたことに救いを感じたんです。被害を受けた女性たちが今になって勇気ある告白をしたこと。話を聞いた次の世代の人たちが事実を伝えていこうと碑文を作ったこと。その両方に感動し希望を見出したのがドキュメンタリー製作のきっかけです。