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ウナギ学者が5つの誤解を正す「完全養殖技術が確立されても、絶滅危機は変わらない」

流通しているウナギの6割以上が何らかの違法行為に関わっている

2018/07/20

Q)ウナギの放流には意味がない?

 現在、日本では毎年多くのウナギが放流されています。自然環境での個体数を増やすことは、ウナギの生態を守るために効果があるのではないでしょうか。

A)生態学などの専門家の多くは、放流は既存の生態系に悪影響を与えるリスクが高いと考えています。

 一般の方と専門家の理解が非常に乖離している部分だと思います。ただ、実際に放流をしている方々は「良いことをしている」と信じているので、説明するのは難しいです。

 日本では年間10トンから17トンものウナギが河川や湖沼で放流されており(2011年から2013年。全国内水面漁業協同組合連合会調べ)、そのすべては養殖場で育てられたウナギです。

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 しかし、人為的な放流にはいくつかのリスクが想定されます。例えば、病原体や寄生虫の拡散。過去にはヨーロッパで実害が発生しました。また、性比の偏りも指摘されています。一般的に、養殖場で育ったウナギの多くはオス。これに対して、自然の河川で採集されたウナギの性比は、メスに偏っている場合が多い。また、放流されるウナギは、養殖場で育ったウナギのなかでも、特に成長の悪い個体が選ばれることが多いのです。このように、放流は、自然環境下で育った個体とは大きく異なる性質を持つ個体を自然の中に戻す行為です。

国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会メンバー(ウナギ専門家グループ)も務める海部健三氏 ©文藝春秋

 放流されたウナギが産卵してない可能性も、ヨーロッパでは論争になっています。普通に産卵すると考える人もいるし、放流されたウナギは本来の産卵場に戻れなくなると考える人もいます。ただ、論争になっているという事実すら日本ではあまり認識されていません。放流という行為が、ひたすら大切な資源を川に捨てているだけの可能性さえ考えられます。放流が孕む様々なリスクや、資源回復に貢献しないかもしれないという可能性について、しっかり考えられてないということは、大きな問題です。

 現状では放流に関する知識が限られていますので、調査研究が進むまでは、現在以上にウナギの放流を拡大しないことが重要です。また、子供の環境学習の題材として利用することにも問題があります。子供は放流を「良いこと」と認識する可能性がありますが、実際には環境に悪影響を与えている可能性も十分に想定できるのです。放流の持つ複雑な背景を正確に伝えることができない場合は、子供に魚の放流をさせるべきではないと考えています。

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