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ウナギ学者が5つの誤解を正す「完全養殖技術が確立されても、絶滅危機は変わらない」

流通しているウナギの6割以上が何らかの違法行為に関わっている

2018/07/20
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Q)ウナギを食べるのは日本人だけ?

 東アジア各国でウナギの養殖がさかんに行われていますが、実際にウナギを消費しているのはほとんど日本なのでしょうか。

A)主要な消費国であることには変わりませんが、比率は減っています。

 20年ぐらい前には、世界中のウナギの7割方を日本が消費しているという話もありました。いまは割合は減少していると思われますが、統計があやふやなので中途半端な推論しかできません。というのも、中国のウナギ養殖生産量がはっきりしないのです。

 TRAFFICという野生生物の国際取引を監視している団体のレポートによると、同じウナギの水揚げ量でも、世界食料農業機構(FAO)に報告された数字と、日中台韓によるウナギに関する非公式協議の場に中国が報告している数字を比較すると、時期によっては5倍ぐらいの開きがあります。より大きいFAOの統計を採用して中国の生産量を最大に見積もると日本の消費量は世界の15%ぐらい、非公式協議の報告を採用して中国の生産量を少なく見積もると、34%(2013年)から46%(2012年)といったところです。

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Q)土用の丑の日にウナギの消費が集中することは、資源管理の意味ではマイナス?

 日本では「土用の丑の日」にイベントとしてウナギを食べる習慣が定着しているため、特定の季節に集中的にウナギが消費されます。これは、保全生態学の観点からは望ましくない傾向なのでしょうか。

©iStock.com

A)適切な消費上限が設定されれば、売り方は問題ではありません。

「土用の丑の日に間に合わせるために、その年に取れた『新子』を急速に育てて流通させる方式の養殖を行っている地域がある。そこが(来遊時期が早い)台湾のシラスを欲しがるから密輸が多い」と言われることはあります。しかし、それは日本と台湾の間で規則を整理されていないことが問題なのであって、ウナギを急速に育てる養殖の手法が悪いわけではありません。

 また、土用の丑の日に「ウナギの消費を煽っている」という議論も、問題の本質から外れている気がします。減少している資源を大量に消費することに対して、倫理的な問題意識を持つ方々がいることは理解できますし、そのような問題意識の元に個々人がウナギを食べないと決めることも理解できます。しかし、個々人が自分の行動を決定することと、業者を含む他者の行動を批判することには、大きな違いがあります。シラスウナギが実質的に獲り放題になって違法に流通している仕組みこそが問題であって、適切な消費上限が設定されれば売り方なんてどうでもいいじゃないか、と僕は思っています。きちんと資源管理されるのであれば、別に牛丼屋がうな丼を売っても、スーパーマーケットがセールをやっても問題ないはずです。

 実際、土用の丑の日は興味深いイベントだと思います。江戸時代のマーケティングが発祥だったという経緯もユニークです。適切に資源管理が行われていたとすれば、消費が集中することによって無駄に廃棄されるウナギが増える可能性を除けば、批判する理由があるでしょうか。そう考えるとやはり、問題はウナギ資源が適切に管理されていないことなのです。