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効果があやしい高額な免疫細胞療法

 そもそも、がん細胞には免疫細胞の攻撃から逃れようとする様々なメカニズムがあるため、体内の免疫細胞に「がんばれ」とお尻を叩くだけでは、がんを攻撃するのは難しいという原理的な問題があるのです。逆に言えば、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みを見破り、そのブレーキを外す方法を考え出したからこそ、本庶教授の研究は画期的だったと言えるのです。

 にもかかわらず、一部の民間の医療機関では、有効性も安全性も確立していない免疫細胞療法を保険の利かない「自由診療」で行っており、たとえばあるクリニックでは、2週間ごとに6回点滴を打つ1クール(1コース)の治療で、200~300万円にもなる料金を請求しています。

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 医の倫理では、有効性や安全性が確認されていない治療は「臨床研究」として実施すべきであり、「被験者」として研究に協力してくれる患者からは費用は取らないで、研究費からまかなうべきだとされています。むしろ治験では、患者に日当や交通費に相当する謝礼が支払われます。

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 にもかかわらず、免疫細胞療法を行っているクリニックは、本来なら臨床研究として行うべき治療を、患者から非常に高額なお金を取って行っているのです。だから、真っ当ながんの専門医たちは、「そんな治療で患者からお金を取るなんて許せない」と批判しているのです。「そんな治療にお金をつぎ込むなら、おいしいものを食べたり、温泉に行ったりしたほうがいい」。がん専門医に聞けば、そのような答えが返ってくるはずです。

「来期は患者を○%増やす」

 逆に、それほど批判されているのに、なぜ免疫細胞療法を行っている民間のクリニックは、それをやめられないのでしょうか。その大きな理由の一つとして考えられるのが、クリニックのバックに、免疫細胞の培養会社がついていることです。

 これらは「株式会社」ですから、売上を伸ばさなければ株主に突き上げられます。私はある培養会社の投資家向けの資料(IR情報)で、「今期は売上が伸びなかったので、来期は患者を〇パーセント増やす」といった趣旨のことが書かれているのを読んだことがあります。つまり、資本主義の論理に基づいて、運営がなされているのです。

 そのため、こうしたクリニックはネット広告やがんセミナーなどを行って、たくさんのがん患者を集めようとします。ある培養会社の取締役には、大企業の元役員、厚労省の元官僚、大学病院に勤めていた医師なども名を連ねていました。また、最近では、テレビCMでおなじみの某美容外科系の医療法人も免疫細胞療法のクリニック運営に乗り出しています。「医は算術なり」という言葉もありますが──医師だけでなく、企業家にも倫理はないのかと、本当に嘆かわしく思います。