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「東大合格1名」なのに名門校と同等以上?

 たとえば、ここ数年、急激に偏差値表での位置を上げている某私立中高一貫校は、まさに入試回数を多く設定し、「本科」とは別に「特進」的な意味合いの入試枠も設けている。最も人気の入試枠の偏差値だけを見れば、駒場東邦(東大47人合格、以下同)や武蔵(27人)、浅野(42人)、雙葉(13人)、フェリス(13人)といった名門校と同等以上。しかし、その学校の東大合格者数は1人である。東大以外の大学合格実績を見ても、明らかに見劣りする。

 急激に偏差値が上がっているということは、2018年に大学を受けた生徒たちが中学を受けた6年前の偏差値で比較する必要があるかもしれない。そこで調べてみると、2012年の偏差値表ではすでに、巣鴨や暁星、逗子開成、頌栄、吉祥女子などの人気進学校とほぼ肩を並べる位置にあった。しかし2018年の難関大学の合格者数あるいは現役合格率では、これらの学校のほうが明らかに上である。

 もちろん大学合格者数が学校の価値を表すわけではないが、同じ「進学校」としてこれほどまでに進学実績に差があるのに、中学入試の偏差値上では互角以上の位置にあることには、違和感を覚えるひとも少なくないはずだ。

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短期間で偏差値が跳ね上がるのは、やはり異常

 念のため断っておくが、偏差値が異常値を示すことがある例として取り上げているだけで、特定の学校を貶める意図はない。海外大学合格実績や昨今のビジネスシーンを意識した派手な教育プログラムが時流に乗って高く評価され、学校全体の人気を引き上げることはあるだろう。大学進学実績にとらわれず新しい基準で学校を選ぶことは、どんどん推奨されるべきである。

 一方で、新しい取り組みが本当に功を奏するのか、単にブームに乗っただけのものでないかを見極めるためには、本来、時間を要するはずだ。それを待たずして人気が先行し、短期間で偏差値が跳ね上がるのは、やはり異常だ。「バブル偏差値」は、長い年月を経て評価を積み重ねてきた学校の偏差値とは意味が違う。

「学歴成金」が住むタワマンが草刈場

 ところで、どのようなひとたちが「バブル偏差値」に飛びつくのだろうか。前述の学校とは別の某私立中高一貫校の校長から衝撃的な発言を聞いた。「後発の私学が手っ取り早く優秀な生徒を集めたいのなら、タワーマンションに住む『学歴成金』を狙うのが常套手段」。

「学歴成金」とは、地方の進学校から東京の難関大学に進学し、そのまま東京の一流企業に勤める共働き富裕層のことらしい。彼らは良くも悪くも学校に対する先入観がないので、偏差値が上昇して注目を浴びる学校に反応しやすい。一方、もともと東京の私学文化の中で育ったひとたちは、良くも悪くも各私学に対する固定化されたイメージをもっているので、リニューアルして入試戦略を講じたところで響きにくい。聞けば納得のマーケティング戦略だ。

 勢いのある学校に、「先物買い」として飛びつくのも、「まだまだ実力はわからない」として回避するのも自由だが、「バブル偏差値」のしくみは理解しておくべきだろう。いまどんな進学校に勢いがあるのかについては、拙著『受験と進学の新常識』(新潮新書)を参照されたい。

受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実 (新潮新書)

おおたとしまさ(著)

新潮社
2018年10月16日 発売

勢いがある塾や進学校の最新事情から、公立中高一貫校、大学附属校、大学入試改革、医学部人気、海外大学進学という選択まで、子供の教育進路を考えるうえでいま押さえておくべきポイントを網羅した「おおたとしまささんのベスト盤」といえる1冊!

 

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