ヤクザとタピオカ

巻頭随筆

ニュース 社会 経済

 昨年から始まったタピオカドリンクの大ブームは、キャッサバという芋の澱粉を黒砂糖等で味付けした“黒タピオカ”が牽引役だ。甘いミルクティーなど、様々な飲料の底に沈められいったん封をし、太めのストローを差して、モチモチした食感を楽しむ。ブームは空前絶後の規模で、繁華街や郊外のショッピングモールにどんどん新しい店が誕生している。

 広域暴力団関係者が経営している黒タピオカ屋は、都内某所にあった。立地も店構え、店員の様子も、暴力団とは一切無関係にしか見えない。実際、働いている店員も、自身が暴力団のフロント企業でアルバイトをしているとは思っていないだろう。タピオカのモチモチした食感を楽しんでいる顧客たちとて、代金が暴力団に還流されるとは想像すらしていないはずだ。

 若い男女に混じって行列に並び、人気メニューの『タピオカミルクティー』を買ってみた。週末だったので約1時間並んだ。ヤクザとタピオカというミスマッチな組み合わせに加え、黒社会の人間が売る黒タピオカは、まるでブラックジョークのようで笑いがこみ上げた。

 実質的な経営者である組長は、商品であるタピオカを業務用スーパーで仕入れているという。

「今年初めくらいからブームで品切れが続くようになった。有名チェーン以外の有象無象は中国からの輸入に頼っているところがほとんどだろう。Webで『黒糖珍珠粉圓』と調べれば安いのが沢山みつかる。原価は1杯で20グラム使うとして6円。客はタピオカがたくさん入ってると喜ぶけど、あんなん沢山入れても痛くない。むしろ飲み物代の方が高い」

 彼とは別の組織の暴力団員は、まだ駆け出しといっていい程度のキャリアだが、不良仲間だった知り合いに資金提供させ、タピオカ店を出店させた。

「これほど楽に始められる商売はない。技術が不要だし、開業コストもかからない。店舗は5坪程度あれば十分で、ジューススタンドほどの広さで足りる。乾燥タピオカを戻したり、牛乳や紅茶を沸かすためのスペースや道具さえあればいい。これまで狭いテナントではクレープやケバブを売ってたんだけど、いまはどんどんタピオカ屋に変わってる。都心でも家賃含め、200万程度の資金で開業できる」

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source : 文藝春秋 2019年9月号

genre : ニュース 社会 経済