今こそ湛山の気骨に学ぶ

巻頭随筆

佐高 信 評論家
ニュース 社会 経済 歴史

 かつて石橋湛山という政治家が日本にいました。1956年、前年に保守合同によって生まれた自民党で総理・総裁となった湛山はジャーナリスト出身。社長も務めた「東洋経済新報」で戦前戦中、軍部の反発を恐れずに対中戦争拡大や対米開戦へ毅然と異を唱えたリベラリストです。不幸にも太平洋戦争で次男を戦死させられてもいます。

 湛山の舌鋒は鋭く、明治の元勲山県有朋が83歳で死んだ時に書いた「死もまた社会奉仕なり」は傑作です。山県は藩閥政治の権化で、日本の民主化の老害だったから痛烈に批判しました。世の趨勢や情実から離れて公人の死も大局から指摘することが「自由主義者の心がまえ」であると説いています。

 彼の思想で知られているのが〈小日本主義〉です。国家権力の増強で覇権を狙う大日本主義に抗し、アジア協調、国内産業の充実を図るよう訴えました。端的に言えば〈小さな政府〉構想です。頑迷な官僚制を廃し、中央集権ではなく地方分権を進め、内需及び輸出入の拡大によって利益を得ていく。合理的かつ健全な自由主義を目指したんです。

 湛山は極端な右傾化への戒めも筆にしています。21年に起きた原敬暗殺の直後に書いた一文を引きます。

「歴代の政府は、時代錯誤を極めたる国粋論、国権論は、喜んで奨励するも、之に対抗して、国民の頭脳を世界大に開発する新思想を自由に討議することは、努めて禁止しておる。故に高等教育にても受けたる青年は、其行動に於て、多少は啓発せらるるの機会を持ち、且又外国語に依って、自ら啓発するの便宜も有すれども、然らざる不幸の青年は、一生、斯かる機会と便宜とを有せない。彼等は、極く狭き周囲の感化に依って、頑固なる保守主義に陥り、或は又、飛んでもない履き違いの新思想かぶれする」

 これは現代の日本のみならずアメリカやヨーロッパへの警句と読むことが出来る論旨です。

 戦後、政界へ足を踏み入れた湛山は剛直な政治家として人気を集めました。吉田茂内閣での大蔵大臣時、国家予算の3分の1を占領軍に供出させられているのに反発、負担減をアメリカに申し入れます。その結果、2割削減を勝ち得ましたが、対等に物を言う湛山を危険視した占領軍は彼を不当にも公職追放してしまう。AP通信が「初めてマッカーサーの横面を張った日本人」と報じたほど、肚が据わっていました。唯々諾々とトランプの要求どおりに戦闘機を買ってしまう首相と大違いじゃないですか?

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source : 文藝春秋 2019年10月号

genre : ニュース 社会 経済 歴史