コロナ過剰反応で生活習慣病が急増

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小田原 雅人 東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科特任教授
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小田原雅人氏 ©東京医科大学

 新型コロナウイルスによる世界的パンデミックが始まって、はや3年が経過しようとしている。当初の過剰な反応は仕方ない面もあったが、長期にわたり国民の不安をやや煽る結果になった面も否定できない。そのため糖尿病等の生活習慣病、ひいては総死亡に対して重大な負の影響があらわれつつある。

 同感染症に罹患すると重症化する可能性が高い基礎疾患には、糖尿病、高血圧、肥満等の生活習慣病が数多く含まれている。なかでも重症化リスクの高い疾患が糖尿病である。糖尿病の罹患者は、パンデミック下で3年近くに及ぶ自己防衛的な医療機関の受診抑制や外出抑制、ストレスに伴う生活習慣の悪化等により、血糖や血圧の上昇や体重増加等の療養状況の悪化が数多く認められる。

 山王病院に2020年4月から6月に受診した168名の糖尿病患者の解析では、84.2%で外出抑制等による身体活動量の低下が認められ、身体活動量が増加したのは僅か1.8%にすぎなかった。また在宅の長時間化やパンデミックのストレスからと考えられる間食の増加や食事回数増加が73.7%で認められた。

あなたの生活習慣は大丈夫? ©iStock.com

 このような生活習慣の悪化傾向は、中長期的に重大な負の影響を及ぼす可能性がある。それを裏付ける1群300万人規模の年別比較疫学データが、2022年5月に世界的な内科誌 The Lancet Diabetes & Endocrinologyに発表された。英国政府のNational Diabetes Auditによるデータでは、2021年7月以降、新型コロナに関連しない死亡が増加する傾向が観察された。特に糖尿病患者で同傾向が顕著であったため、その原因検索が行われたが、患者の診療抑制による8つの生活習慣病関連の危険因子(血糖、血圧、コレステロール、尿蛋白、腎機能、体重、喫煙、足のケア)の管理を怠ったことが、心血管疾患をはじめとした、新型コロナ非関連死11%増という結果を招くこととなったことが示唆されている。

死亡リスクを上げている理由とは ©iStock.com

「総死亡の抑制」に舵を切れ

 一方、我が国においても2022年の総死亡統計が発表されたが、その結果は衝撃的なものであった。同年1月より、例年と比較して総死亡が大幅に増加していたのである。

 その原因として新型コロナ感染による死亡増加が当初疑われたが、22年に流行しているオミクロン株による感染では、もともと欧米諸国に比し低かった重症化率がさらに大幅に低下している。重症化率が低いにもかかわらず、死亡率が上昇することは考えられない。実際2021年に蔓延したデルタ株はオミクロン株より重症化率が大幅に高かったにもかかわらず、総死亡の増加は短期的かつ限定的であったことを考慮すると、コロナ関連死の統計上の不備はともかくとして、新型コロナ非関連死が増加したことは明らかである。最近の総死亡の増加傾向は日本や英国以外の欧州、オーストラリア等の先進国でも大きな問題となっており、より詳細な検討が行われている。

 また、受診抑制に伴うがんのスクリーニング検査の抑制傾向が持続したためと思われるがん死が増加したことも明らかになってきている。その他、経済的影響やストレスが理由の一部と推察される自殺者の大幅な増加も認められ、高齢者では運動量低下による「サルコペニア」「フレイル」といわれる筋力低下、心身衰弱が加速している。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

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