パンデミック中、世界的に不足が続いたのは精神科医と精神科病棟のベッドでした。私はアメリカで小児精神科医として働いていますが、パンデミックは特に子どもたちの精神状態に影響を与えたと感じています。2021年には、アメリカ政府の公衆衛生局長官から、子どものメンタルヘルスが「国家的な非常事態」と認定されたと発表がありました。
アメリカ疾病予防管理センターのデータによると、特に顕著だったのは、12〜17歳の女の子の自殺未遂による救急利用の増加で、患者数はそれ以前の1.5倍に増えました。また、19年に比べて精神科の救急外来に訪れる5〜11歳の子どもの数が24%、12〜17歳の子どもの数が31%増でした。
私が勤めるハーバード大学附属病院のマサチューセッツ総合病院も精神科救急室の部屋や椅子は常に足りず、廊下で診察することもありました。さらに、入院が必要な患者さんに空きベッドが見つからない満床状況が頻発し、救急外来の一室で、数週間にわたってベッド待ちを余儀なくされるお子さんもいました。
一方で、アメリカの小・中・高校では問題行為の増加が報告されています。教室から授業中に逃げ出す生徒、友人や大人への敬意のない言葉遣い、学校での器物損壊などが報告され、ニューヨークタイムズに取材を受けたある学校の教師は、「15年間の教職生活の中でこれまでにない意地悪な言葉のやりとりを目にしている」と声にしました。
こういった人間関係の衝突や敬意を欠いた言動は、学校現場だけでなくネットやSNS上でも顕著にみられ、ネット上での誹謗中傷はパンデミック以降、各国で増加したとの調査結果が出ています。子ども同士のオンライン通信でも、相手を中傷するヘイトが70%、オンラインゲームなどでの喧嘩や悪口は40%も増えたと報告されています。誹謗中傷の発言をするのもメンタルヘルスの危機と言えますが、それを日常的に目にする人もまたメンタルヘルスに悪影響を受けるでしょう。
精神的な苦痛は身体に表れることもあります。内科的な原因が見つからない目眩、耳鳴り、頭痛、集中力の低下などの理由で内科、小児科などを受診した人も増えました。
「問題行動」は可視化しやすいものの、身体症状に表れるストレスは親や教師の目に触れず、長期に苦痛が続く場合もあります。特に、日本人を含む東アジア人は、白人に比べて精神症状が身体症状に表れることが多いという研究もあります。
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