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校則が厳しいのに「生徒の自主性を重んじる校風」と書いてしまう素敵な状況について

みんな、口では「子どもの教育は大事だよ」と言うのです

2019/07/04

なりたい人は誰でも教員になれてしまうぐらいの倍率

 そして、日本の先生、教員はブラック企業もかくやというほどストレスフルな勤務状況を強いられる一方で、かつての難関であった教員採用試験はすっかりと色褪せ、いまではなりたい人は誰でもなれてしまうぐらいの倍率になってしまい、優秀な教員に支えられた日本の教育の現場という比喩自体が崩壊してしまっています。

 一番忸怩たる思いをしているのは日本全国で子どもたちの教育の前線に立っている先生がたでしょう。英語を喋れない英語教師が量産されたと酷評された時期もありましたが、いまではそれよりも酷く、教員の定員が維持できないので体育教師が社会を教えたり、課外活動や学校行事を行える人員が確保できず働いている保護者たちの協力も得られないので活動そのものを縮小したり取りやめる学校さえも出てきています。

 こうなると、先端技術を学校の現場で活かせといっても、それに対応できる先生の数も質も足りず、高齢化した教員にプログラミングを子どもに教えさせることで「子どものほうがプログラミングに詳しい状況」となってしまえば、子どもにどうやって「先生を尊敬しろ」と言えるのかという哲学的な状況にまで達してしまうことになります。

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 結果として、学校の、先生の、システムの尊厳を維持するために、どうしても校則を厳しくして、生徒がそれを守っているという状況にしない限り、日本の公教育の現場を成り立たせることができないのではないか、と危惧するのです。「お前ら、先生だぞ。言うことを聞け」という、古き昭和のプロトコル。

一層の抑圧を生徒に求める規律の取れた学校像の美化へ

 だって、プールカードはハンコによる捺印でなければ入れない学校とか平然とある状況なんですよ。理由もなく「学校が決めたことだから守ってください」というのは、もはや世間で通用する組織の言うことじゃありませんよ。

©iStock.com

 もちろん、これは一例であって、もっと柔軟な大多数の学校はそうではないかもしれませんが、茶髪やパーマ、制服の問題でも「何が学校教育に求められているのか」が不在のまま校則だけが厳しくなり、また、保護者や地域の目を過剰に気にした結果が一層の抑圧を生徒に求める規律の取れた学校像の美化へと繋がっていくわけですよね。

小学校のプールカードに保護者がサインで出したら入れてもらえなかったので学校に聞いてみた - Togetter
https://togetter.com/li/1370711

「黒染め強要で不登校」生まれつき茶髪の女子高生が提訴:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASKBS6D22KBSPTIL024.html

 そういう意味不明な強制と矯正が平然と行われている日本の教育で、自律性や自発性を重んじるべきSTEAM教育やらプログラミング教育、あるいはアクティブラーニングが日本の社会を開きますと文部科学省に言われても困ります。「文科省、お前はそれをどの口で言うのだ」と現場や保護者や生徒から一揆でも起こされるんじゃないかと思いますし、学習ログを吸い上げるために生徒1人1台PCを配ったとしても特定の企業が潤うだけだという議論になりはしないか心配でなりません。

 みんな、口では「子どもの教育は大事だよ」と言うのです。でも、そこで起きていることが世間一般のブラック企業も真っ青になるような、ツヤツヤの漆黒も同然の状況だとしたら、子どもをいったいどこで教育すればいいのでしょうか。教育には100点満点などないけれど、せめて胸を張って「この学校に来てよかった」と言えるような教育システムになっていってほしいと願っています。

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校則が厳しいのに「生徒の自主性を重んじる校風」と書いてしまう素敵な状況について

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