勝てば初タイトルという一局に8連敗
だが、木村のタイトル戦における苦闘はここから始まった。この竜王戦以降、王位戦で3回、王座戦で1回、棋聖戦で1回、計6回のタイトル戦番勝負敗退がある。タイトル獲得なしでの番勝負出場6回は森下卓九段と並ぶ最多タイの数字だった。この中では勝てば初タイトルという一局に8連敗しており、また挑戦者決定戦での敗戦も竜王戦で4回、棋王戦で1回、棋聖戦で1回あった。
局後インタビューで「あと1勝が遠かったですが」と聞かれた時には「あまり意識はしませんでした。悔いが残らないようにとは考えていましたが、いつも通りにという気持ちです」と語った。
また、過去のインタビューでは「タイトルまであと1つになると、封じ手の夜に眠れなくなる」と語っていた木村だったが、前夜について問われると「寝られました。とてもよく」と答え、「コンディションは万全だったと思います」と続けた。
決着局の打ち上げで目を真っ赤にしていた木村がいた
筆者が木村のタイトル戦を盤側で観戦する機会があったのは、2014年の王位戦第2局と16年の王位戦第2局である。相手はいずれも羽生王位(当時)で、いい将棋を勝ち切れずに逆転負けを喫していた。このシリーズはそれぞれ2勝4敗1持将棋、3勝4敗だったので、結果的には番勝負の行方を左右した一局だったと言えるのかもしれない。
また2014年のシリーズでは、決着局の打ち上げで目を真っ赤にしていた木村がいた。木村を深く尊敬する飯島栄治七段は、打ち上げ終了後に木村を自宅にまで送ったそうだが、その時の荒れ方は並大抵のものではなかったと証言する。
その2年後のシリーズではスコアがより切迫していたこともあり、終局直後には言葉を詰まらせていた木村の姿もあったが、打ち上げを終えた時点では次に向けての前向きな雰囲気を感じたという。
「まさに『百折不撓』ですね。木村さんは絶対にまたタイトル戦の舞台へ戻ってくると思います」
とは、当時のシリーズ直後に飯島が発した言葉だ。