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アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)より

2019/11/01
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 消費者がアマゾンで注文した商品を翌日に受け取ることができるのは、こうした現場の厳しいノルマと密接に関係している。

 消費者が、アマゾンの画面で《注文を確定する》をクリックすると、その注文は、いったんはアメリカのアマゾンのサーバーに飛んでいく。そこをへて、届け先から近い日本国内の物流センターに割り振られる。物流センター内で、ピッキング指示がハンディー端末を経由してアルバイトに伝えられる。注文した商品は数時間以内にピッキングされる。ピッキングされた商品は、ベルトコンベヤーに載って、1階の梱包・出荷エリアへと向かう。ここでも商品は短時間で梱包され、アマゾンの物流センターから宅配便業者の中継センターへと運ばれる。

 注文した日の夜、宅配便業者のセンターで、商品は地域ごとに細かく仕分けされる。届ける住所をカバーする宅配便センターへと商品が運び込まれるのは、注文の翌朝となる。配達員が朝から1日かけ、その荷物を届けることで、日本におけるアマゾンの翌日配送は成り立っている。

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物流センターの数や場所さえ非公表

上空から見たアマゾンの小田原流通センター。面積は東京ドーム4個分 ©時事通信社

 休憩時間の11時45分となったので、ハンディー端末を詰所に戻し、2階の食堂に向かった。その日、私が食べたのは350円のメンチカツ定食と100円のサラダ。定食についてくるお味噌汁とご飯はセルフサービスである。

 安いなぁ。

 食堂での安価な定食は、アマゾンのアルバイトに与えられた数少ない福利厚生である。この定食が、クリスマス前後になると200円となり、正月三が日となると無料になることは、あとで知った。

 ご飯のはいった炊飯器の横には、「おかわり厳禁」の文字がある。周りを見ていると、大半の男性アルバイトは、茶碗に3杯分ぐらいのご飯をよそっていく。いくら体力勝負の作業とはいえ、それでは炭水化物のとりすぎとなり糖質管理という面からは問題なんじゃないの、とこちらが心配になるほどだ。

 一緒に食べる相手もいないので、メンチカツをほおばりながら、私はあれこれと考えを巡らせていた。

©iStock.com

(中略)

 入り口にこんなポスターが貼ってあった。

「物流センターは一般的に、配送センター(DC)と呼ばれますが、アマゾンのセンターはフルフィルメントセンター(FC)と呼びます。アマゾンのセンターも操業当初はDCと呼ばれていたのですが、1999年に“FC”という呼称に変更されました。/これはアマゾンのセンターが単にモノの出し入れをするだけでなく、お客様の高い要望に応える『サービス』を提供する場所だからであり、他の部署と連携して、顧客満足度を生み出す場所であるからです。すなわち、お客様の『満足』を『満たす』場所だからです」

「あーそうですか。ご立派なことですね」

 というのが私の感想である。

 アマゾンのこだわりはわかったが、それに付き合うつもりはない。この書籍ではわかりやすいように物流センターと表記する。

 このFCの説明に限らず、小田原のセンターでは、壁に隙間さえあれば何かのポスターが貼ってあった。アマゾンの方針の説明であったり、アルバイトへの連絡事項や、健康に関するもの、労災事故に関するものや、作業ミスに対する警告──などさまざまなポスターが貼ってあった。