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アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)より

2019/11/01
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アルバイトにノルマとプレッシャーを与えるアマゾン

 私には、アマゾン社員と言葉を交わす場面など一度もなく、リーダーやスーパーバイザーと話をする機会もほとんどなかった。黙々と作業するしかなかった私は、物流センター中に貼ってあるポスターを熱心に眺め、アマゾンの意図を読み取る手段としようとした。

 他の作業現場と同じく、アマゾンの物流センターでも、アルバイトへ懇切丁寧に説明しようという態度は欠けていた。しかし、そのポスター群を見ているとアマゾンの意図が透けて見えてくるようだった。一番目立ったのは、作業者に警告し、プレッシャーを与えるような威嚇的なポスターだ。

 たとえば、「重大品質事故が発生しました」として、棚入れ作業で最下段にあった商品を、アルバイトが勝手に最上段に移動し、最下段にできたスペースに別の商品を棚入れしたため、もともと最下段にあった商品が見つからなくなった、という事例を挙げ「このような違反行為は絶対にしないでください。違反行為が発覚した場合は、調査を行い厳正に対処します」と赤字で書いてある。

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©iStock.com

 ほかにも、「重大事案発生連絡」として、「故意の商材破損・故意の倉庫内飲食。■食品を食べてゴミを放置、■フタを開けて液体を散らかす」。その下には、トンカツソースとマヨネーズが逆さまになり、床に大量の液体が流れ出している写真が2枚添付されていた。最後には「*不審者を見たら、すぐに報告してください。私たちは、このような犯罪行為を絶対に許しません!」と締めくくってある。

 私はその写真を見ながら笑いそうになった。単調な仕事に嫌気がさしたアルバイトが腹いせにやったのだろうか、それとも苦々しく思っているリーダーやスーパーバイザーなどへの仕返しのつもりだったのだろうか、と想像した。

 ロッカーには「最後にもう一度確認してください! ポケットの中などに携帯電話が入っていませんか? 持ち込みは絶対ダメ。携帯電話の持ち込みは、即退社していただくことがあります」。

 作業スペースに携帯電話の持ち込みは厳禁だった。

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 うっかり持って入ったら、警備員が携帯電話のなかの私的な写真や動画、メールの内容や電話番号などを全部確認して、問題がないと判断したうえでないと返却されない。返却までに2、3日かかることもあるという。携帯電話内の情報を見せることを拒めば、その場で解雇となる。

 15年前と違い、今は携帯電話さえあれば、アマゾンの物流センター内のレイアウトや作業風景を写真や動画に撮って、外部に流すこともできる。しかし、アマゾンにとって物流センター内は、すべて企業秘密に相当する。

 ポスターにある「厳正に対処」や「不審者」、「犯罪行為」や「即退社」といった刺々しい言葉が含まれたいくつもの権高なポスターを目にすることは、働く側の気持ちを委縮させる効果がある。作業でミスをしてはダメなんだ、いつもアマゾンに見張られているんだ、という陰鬱な気持ちになる。

潜入ルポ amazon帝国

横田 増生

小学館

2019年9月17日 発売

アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

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