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記者と取材対象の近さ問題

 実は文春には《黒川氏は昔から、産経や朝日はもちろん、他メディアの記者ともしばしば賭けマージャンに興じてきた。》(5月28日号)とある。

 記者と取材対象(権力者)の近さ問題はそのまま「新聞論」になるはずだ。しかし他紙の社説でもそこまで論じるものはなかった。

 関係性を深めないと情報が取れないという理屈もわかる。しかしそれが単なるズブズブだったら? 時の権力が国民に何をやっているか記者が教えてくれなかったら? 「書いてはいけないこと」が何かと交換されていたら? さまざまな疑問が浮かぶ。

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 ひとつ言えるのは、現在はもう昭和ではないということ。

 毎日新聞「桜を見る会」取材班が書いた『汚れた桜  「桜を見る会」疑惑に迫った49日』に象徴的な記述がある。

前回の「桜を見る会」での安倍晋三首相 ©︎ロイター/AFLO

 桜を見る会疑惑の渦中の昨年11月20日、内閣記者会に加盟する各報道機関の官邸キャップと首相による「キャップ懇談会」が開かれた。食事会だ。これを毎日新聞は欠席した。ここで聞いたことを報道できない以上、出席しても意味がないという判断をしたのだ。

 この判断はSNSで話題になり、称賛も多かった。つまり「記者たちも見られている」のである。

 首相会見で誰が何を質問したのかすぐにチェックされるし、たとえばイチローの引退会見でとんちんかんな質問が出たら「あれは誰なんだ」と話題になる。記者にとってはオープンな場でのガチンコ勝負の実力も問われる時代となった。

 新聞は読むだけでなく「見られている」のです。

 ちなみに東スポは「問題になった日の夜も国士無双をアガったと噂されている」(5月23日付)と報じていた。マイペースである。

「訓告」は「事前に官邸で決めていた」

 では、文春報道のあと政権はどう動いたか。見えたのは相変わらずの「例の振る舞い」である。

 政府は21日、大阪、兵庫、京都の緊急事態宣言を解除したが、首相は《コロナ対応の節目では会見してきたが、この日は立ったまま質問を受けた。「逃げ」の姿勢がにじんだ》(日刊スポーツ5月22日)。

5月21日、関西3府県の緊急事態宣言の解除と、黒川弘務東京高検検事長の辞表提出について記者団の質問に答える安倍首相 ©︎時事通信社

 そういえば同じく文春が報じた森友問題・赤木俊夫さんの遺書全文公開(3月26日号)直後も会見は開かなかった。

「記者会見だと、コロナと関係ないことも聞かれる。対策本部会合で語ればいい」

 政権幹部の言葉を東京新聞が報じていた(3月21日)。逃げの姿勢を論評されるのはあのときと同じ。

 さらに今回は「黒川氏処分、首相官邸が実質決定」(5月25日)と、共同通信が報じた。

「複数の法務・検察関係者」に取材したところ、

《法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となったことが24日、分かった。》

 つまり、

《確かに訓告処分の主体は検事総長だが、実質的には事前に官邸で決めていた》というのだ。

 これは「定年延長の閣議決定」のくだりとまったく同じ。