「八百長」の全貌を語る
いまの俺が、今回の事件で迷惑をかけてしまったファンや関係者に対してできることは、すべての真実を語り、懺悔することだけだ。本書は、元ボートレーサーが詳細に「八百長」の全貌を語る、史上初めての手記となるだろう。
裁判では検察側の主張をほぼすべて認めたが、それは司法の場で細部を争う意味を見出せなかったからにすぎない。ファンに知ってもらうべき本当の真実は、すべてここにまとめた。自分にとって不利な告白となる、裁判で認定されていない八百長についても書いた。
何を言っても弁解にしかならないことは分かっているが、すべてを明かすことが、贖罪と自分自身の再出発の条件であると俺は信じている。
「いまもボート界に八百長は存在する」と断言できる
ただ、この本に書いていない重要なことがひとつだけある。
「いまもボート界に八百長は存在する」という事実だ。
なぜそれを断言できるかと言えば、俺の不正には共犯選手がいたからだ。そして、それ以外にも多数の選手の不正事実を俺は知っている。誰が、いつ、どのレースで八百長をしたか、具体的に証言することもできる。
俺は今回、事件を起こし逮捕されたが、検察にも、競技運営団体の一般財団法人モーターボート競走会に対しても自分のこと以外は一言も話していない。
業界の浄化という意味からすれば、自分の知っているすべてを語り、告発すべきではないかという考えもあるだろう。しかし、すべてを失った俺とはいえ、他人を売ることはどうしてもできなかった。
事件で逮捕される前、国税のガサ入れを受けた後、俺は絶対にアシがつかない方法で、関係者に連絡した。
「俺は絶対に売らん。だからお前もしゃべるな」
「分かりました。ありがとうございます」
そういうやりとりがあったのも事実だ。
ここで、誤解なきよう説明しておきたい。レースで不正をしている選手は、全体からすればごくわずかだ。ほとんどの選手はクリーンで、八百長とは無縁のはずだ。しかし、不正に関与していたのは俺だけではなかった。これは厳然たる事実だ。
検察や競走会は、今回の事件を「前代未聞の犯行」という。
そんなことはない。
表沙汰になったのは初めてかもしれないが、決定的な証拠がなかったというだけで、水面下では常に不正はあったし、いまもある。検察はともかく、競走会はそのことをよく知っているはずだ。
俺は今後も、他人のことについて話すつもりはない。ただ、本当に自分の身を守らなければならなくなった場合にはその限りでない。