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逮捕前の「自首」

 2019年9月、逮捕される3ヵ月前のことだが、俺はモーターボート競走会に「自首」した。これは裁判でも語ったことだが、俺は自ら外部の人間にレースの情報を流し、その人間が不正に利益を得ていたこと、さらにはその人間が国税の査察を受けた事実を告げ、責任を取る形で選手を引退したいという意向を伝えた。

 だがそのとき、俺は「一身上の都合」という引退理由を書かされ、その後、競走会は俺が逮捕されるまで不正に関与していたという内容を公表することはなかった。それを隠蔽と言わずして何というのだろう。

 2020年7月の公判で俺が「自首」したことを証言すると、競走会は「そういった事実は一切なく、事実無根であり、法的措置も検討している」とまで言い切った。俺が言っていることは、罪を軽くするための方便にすぎないというわけだ。

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 大前提として、俺が起こした事件のおかげで、競走会や関係者に迷惑をかけたことは深く反省している。ただ、事実を覆い隠すのはやめるべきだ。競走会が、いまのような隠蔽体質を改めない限り、今後とも不正がなくなることはないだろう。

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 法的措置を取られてもいまさら俺は困らないが、もし証言の信用性をめぐって全面的に争うのであれば、俺は自分の知る他の選手の不正を語ることになるだろう。もちろん、競走会が「業界の未来のためにすべてを公の場で話せ」というのであれば、いつでも俺は事実を話す。だが、いまの競走会にそこまでの覚悟があるとは思えない。

業界の隠蔽体質を一掃したいという思い

 選手時代、俺はレースで「F」を切ることが多かった。Fとは「フライング」のことで、大時計がスタートを示すタイミングより前にスタートラインを踏み越えてしまう事故を意味する業界用語だ。フライングすると、当該艇の舟券は返還となり、売上は激減。選手は一定期間出場停止になるなど厳しいペナルティを受けなければならない。だから選手たちはいつもスタートで事故を起こさないように注意を払っていた。

 だが、もう俺はFを気にする人生とは別れを告げた。事件後、妻とは離婚し、もはや失うものもなくなった。ここからは思う存分踏み込んで真実を語り、迷惑をおかけしたファンの方々へのお詫びとさせていただきたい。そして、本書が不正の末路を示す「教訓の書」となるとともに、業界の隠蔽体質が一掃されることを切に願う。

競艇と暴力団 「八百長レーサー」の告白

西川 昌希

宝島社

2020年11月2日 発売