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野口聡一さん10年ぶりにISSへ…クルードラゴン搭乗前に語っていた“宇宙へ行く意味”

「ふと目の前にある地球が一個の生命体として——」

2020/11/21

source : 文藝春秋 digital

genre : ニュース, 社会,

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仲間の犠牲によって変わった「宇宙へ行くことの意味」

 当時、6年間に及ぶ訓練を続けていた彼は、次のミッションに最優先で指名される「プライムクルー」に指名されていた。3月にはフライトが予定されており、事故を起こしたコロンビアには搭乗する可能性もあった。

 事故後、スペースシャトル計画の予定はキャンセルされ、彼はテキサス州とルイジアナ州にまたがって散った部品を探すため、事故の2か月後に森林地帯での捜索を経験している。以来、自分にとって「宇宙へ行くことの意味」は変わらざるを得なかった、と彼は言った。それまでは一つの「職業」であり「仕事」だと考えていたフライトが、ともに訓練をしてきた仲間の犠牲によって、自らの死とも直結する人生の観念的な問題を含むようになったからだ、と。

「以来、僕は自分が宇宙に行こうとする理由を説明できなくなりました。宇宙に行くことを自分がどのように捉えるべきか。あの事故を間近で見てなお、それでも飛びたいと言える理由をはっきりさせなければならない、と思うようになったんです。例えば、当時の宇宙ステーションの組み立ては、確かに壮大な計画でした。でも、そのために死ねるか聞かれたら、たぶんそうじゃないと感じました。ならば、宇宙に行くことで得られるのは、自分自身の内面的な変化であったり、世界を見つめる目を次のステージに進めたりという、そういったことなんじゃないか。そんなふうに考え始めたんです」

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地球の圧倒的な存在感

 そして、そのように宇宙体験の意味を模索し始めた彼が、コロンビアの事故とともに強い影響を受けたのが前述のEVAの体験だったのである。

©文藝春秋

 野口さんが初めて船外活動を経験したのは、最初の宇宙滞在の7日目のことだ。ミッションの内容は機体の耐熱タイルの補修検証試験などで、船外活動のリーダーを務めた。

 ハッチを開けて外へ出とき、目の前に広がったのは圧倒的な量感の「光」だった、と彼は自著『オンリーワン』の中で振り返っている。太陽の光を反射する地球は、あまりに大きな「存在感」を放っていた。また、軌道から400キロメートル離れて光輝くその地球に、一方で〈手を伸ばしたら届くのじゃないかというほどの親しみやすさ〉を感じた。

〈同じ宇宙からでも、船内からと船外からとでは、圧倒的に見えるものが違いました。宇宙船から見ている景色は、端的に言うと新幹線の中から見る富士山のようなもの。ひとつの景色でしかないんです。きれいだと感じるし、懐かしい地形を見ると感激もする。でも、手を伸ばせば届く様なリアル感はない。

 しかし船外に出ると、なによりもまずその存在感に圧倒されてしまう。「目で見る」ことと「触感で感じる」くらいの違いがある〉(『オンリーワン』より)