「日本では何が犯罪なのか」教えるベトナム人YouTuberも
やはり社会人として日本で働きながらYouTuberとしても活動するYuu Doさんもそのひとりだ。ふだんはクィさんのように日本語で、日本人に向けてベトナムの文化を伝えているのだが、ベトナム人犯罪が多く報道された11月下旬には、在日ベトナム人に向けて動画を発信した。
「ベトナム人が注意した方がいい日本の法律」というタイトルで、日本ではどんな行為が犯罪に当たるのか、ベトナムとの法律の違いなどをベトナム語で紹介している。漁業権の設定されている場所での貝類の不法な採集や、ハトやカルガモなど野生動物を捕獲して逮捕されるベトナム人実習生が相次いだからだ。これらはいずれもベトナムでは、とくに法に問われることがない。
「日本ではなにが犯罪かわかっていないベトナム人も多いんです」
タオさんは言う。知識がなく日本語もほとんど学ばないまま日本まで来てしまった実習生に、少しでも留学生や社会人の持つ情報を共有しようという活動が広がりつつある。
日本とベトナムの「かけはし」になりたいけれど
「日本に来る前に、実習生にしっかり教育を受けさせてほしい」
タオさんやクィさんは語気を強める。なにかと「情弱」な実習生に比べると、留学生や社会人はSNSや日本のニュースを通じて、技能実習制度のいびつさをよく知っている。
「現地の送り出し機関の中には、日本語や日本の文化をほとんど教えないだけでなく、どんな仕事をするのか、その説明もないところがあります」
留学生と違い、実習生はほとんど無知なまま来日する。明らかに海外で就労できる人材ではないのだ。そこをベトナムの送り出し機関につけ込まれて借金を負わされ、日本では受け入れ企業で暴力やパワハラ、差別に見舞われる。受け入れ企業を監督する立場の監理団体(組合)には必ず「駐在員」なるベトナム人のスタッフがいるのだが、
「責任を持ちたくないと、実習生がひどい扱いを受けていても見て見ぬふり」(タオさん)
で、ベトナム人と日本人が寄ってたかって技能実習生を食い物にしている実態がある。この制度そのものを変えてほしいと、ふたりは訴える。
「環境に満足して働けていれば、逃げ出したり、犯罪をする人はいなくなると思うんです」
そう語るタオさんも、クィさんと同じように、日本での起業を考えている。
「日本でチャンスをつかみたい、成功したいと思って来たから」
こんな若いベトナム人もまた、日本にはたくさんいる。この異国で、どんどん起業にトライしていくのだ。貿易、飲食、IT、不動産などさまざまな分野で会社を興し、日本の雇用や税収に貢献しているベトナム人も少なくない。
ふたりがひんぱんに口にしたのは「かけはし」という言葉だ。
なにか両国を結びつける仕事をやってみたい。友好関係に貢献したい。そんな夢を持つ若者たちが、日本社会で広がりつつある「ベトナム人お断り」で行き場をなくしてしまっていいのだろうか。